個人に依存せず、適材適所で勝つ。未経験者だけのチームが一部昇格に挑む——長崎県立大学アメリカンフットボール部
約40名の部員全員が大学から競技を始めた未経験者でありながら、2025年、2部リーグ優勝を果たした長崎県立大学アメリカンフットボール部。長崎県佐世保市を拠点に活動し、片道数時間に及ぶ移動や常任の指導者がいないといった制限があります。その中で着実に力を伸ばし、現在は悲願の1部昇格を目標に日々活動しています。
リーグ下位に低迷していたチームを変えたのは、個人の感覚に頼るのではなく仕組みで動く「システム化」と、部員それぞれの強みを活かす「適材適所」の考え方でした。限られた環境の中で、どのように勝利への道を切り拓き、学生主体の組織を成長させてきたのでしょうか。
チームを率いるキャプテンの青山京平さんに話を聞きました。

——長崎県立大学アメリカンフットボール部について概要を教えてください。
現在、1年生から4年生まで、選手とマネージャーを合わせて約40名で活動しています。チームの目標は、秋に開催される九州リーグで1部昇格を果たすことです。
現在は2部リーグに所属しており、昨年は2部優勝を達成しました。入れ替え戦では九州工業大学に惜しくも敗れましたが、その経験を通じて、チームとして「勝つことの楽しさ」を実感できたことは大きな収穫だったと感じています。
普段の練習は週3〜4回行っています。また、リーグ戦の試合会場は福岡県や熊本県になることが多く、大学から数時間かけて車で移動することも少なくありません。決して恵まれた環境ではありませんが、全員で同じ目標に向かって日々活動しています。
——チームの雰囲気や、独自の文化があれば教えてください。
一番の強みは、部の雰囲気の良さです。歴代の先輩方がとても優しく、下級生を一人にさせない文化を築き上げてきました。
私たちは全員が未経験から競技を始めるため、最初から厳しすぎる環境だと、新入生が続けづらくなってしまいます。だからこそ、みんなで声を掛け合いながら、誰もが自然にチームに溶け込めるように工夫しています。
プレイヤーとマネージャーの距離も近く、一緒にご飯に行ったり、誕生日を祝ったりするなど、学年を超えたつながりが強いことも特徴です。
また、この部ならではの“あるある”として、部で作ったスウェットやTシャツをそのまま着て授業に出る部員も多く、日常の中にもチームへの愛着が自然と溶け込んでいると感じます。

——長年結果が変わらなかったチームが、昨年飛躍できた理由は何ですか?
一番大きかったのは、前任のキャプテンがチーム運営の仕組みを見直し、役割と動きを明確にする「システム化」を進めたことだと思います。
それまでは長年、2部リーグで5位前後の成績が続いており、チームとして課題が曖昧なまま残っていました。練習や運営もその場の流れや個人の自主性に任されることが多く、役割分担が十分に整理されていない状態でした。
例えば、練習前のウォーミングアップ一つを取っても、誰が進行するのか決まっておらず、なんとなくマネージャーが前に立って進めているような状態でした。そこで、「この役割は誰が担当するのか」「どのタイミングでどう動くのか」といった細かな部分まで明確に決めていきました。
一つひとつは小さな変化ですが、役割が整理されたことで、下級生も含めてチーム全体が迷わず動けるようになりました。その積み重ねが、昨年の飛躍につながったのだと思います。
——全員が未経験者からのスタート、どのように練習を進めているのでしょうか?
基本的には、自分たちで考えながら練習しています。ただ、「今のやり方が本当に正しいのか分からない」という不安は常にあります。そんな中で大きな支えになっているのが、仕事の都合で佐世保市に来られている外部コーチの存在です。ボランティアで週に数回グラウンドに来てくださり、技術面や戦術面の指導をしていただいています。コーチが来れない日は、教わった内容を繰り返し確認したり、LINEで質問したりしながら、自分たちで疑問を解決しています。
一方で、指導者が常にいない環境だからこそ生まれた強みもあります。他大学では、指導者を中心にチームの「型」が作られることが多いですが、私たちは部員同士で意見を出し合いながら戦術を作っています。特定のスタイルに縛られないので、自然と自分たちらしいオフェンスができあがっていきました。
その結果、相手が事前に自分たちの試合動画を見て分析してきても、実際の試合では動画とは異なる動きをするため、、相手の予想を外せる場面が多くあります。今では、それがチームの大きな武器になっています。

——コンタクトスポーツへの恐怖心はどのように克服しているのでしょうか?
最初はルールすら知らない状態なので、まずは競技そのものを知ってもらうことから始めています。全体ミーティングを開き、動画やインターネットで調べた情報をもとに、各ポジションの役割やルールを部員自身でまとめ、プレゼン形式で発表することで理解を深めています。
コンタクトへの恐怖心については、まず一度挑戦して「成功体験」を積んでもらうことを大切にしています。相手を圧倒できた時の楽しさや、プレーが成功した瞬間にチーム全体が盛り上がる感覚を味わうことで、自然と前向きに取り組めるようになります。
——体づくりも大変だと思いますが、どのような変化がありますか?
体重を増やすための筋力トレーニングや食事管理は、全員がぶつかる大きな壁です。ただ、その分、努力した成果が目に見える競技でもあります。
私自身、入部当初は60キロほどでしたが、現在は80キロを超え、ベンチプレスも100キロを上げられるようになりました。同級生の中にも、60キロほどだった体重を100キロ近くまで増やした部員がいます。彼は香川県出身で、なかなか実家に帰る機会がなかったのですが、久しぶりに帰省した際には、親御さんから「誰かわからなかった」と驚かれたそうです。
このように、競技を続ける中で身体が大きく変化していくのも、この部活ならではのエピソードだと思います。
——キャプテンとして組織をまとめる中で、どのようなことを学びましたか?
「努力の方向性を見極めること」の大切さです。キャプテンになった当初は、新入生とのコミュニケーションも含めて、自分がリーダーとしてすべてを担わなければならないと気負っていました。しかし組織を客観的に見直す中で、自分の不得意な領域まで一人で抱え込むのではなく、その領域を強みとする部員に任せることで、チーム全体の力は最大化されると気づきました。完璧なリーダーを目指すのではなく、部員それぞれの強みを把握し、最も力を発揮できる役割を任せる「適材適所」のマネジメントを強く意識するようになりました。
また、以前は、新しい施策を考える際に、金銭面やメンバーの負担といった懸念ばかりに目が向き、行動をためらってしまうことがありました。しかし思い切って全体ミーティングを開いてみると、下級生からも練習内容や役割分担について前向きな意見が多く出て、組織としての動きが大きく改善しました。
考えすぎて立ち止まるよりも、まず実行し、チームの反応を見ながら一緒に形にしていく方が、組織は前に進む。この実感は、リーダーとしての大きな財産になっています。

——現在チームとして直面している課題と、その解決策を教えてください。
現在最も大きな課題は金銭面です。新年度の予算を試算した段階で、すでに約10万円の赤字が見込まれており、これをどう補填していくかが喫緊の課題となっています。
解決策として、まずOBの方々への働きかけを進めています。これまで卒業生とのつながりがやや希薄になっていたため、影響力のあるOBの方に中心となっていただき、少額からでも協賛を集められる仕組みづくりを進めています。
また今後は、クラウドファンディングの実施や企業へのスポンサー依頼も行う予定です。外部への発信を強めながら、資金面の基盤を自分たちの手で築いていきます。
——いつも応援してくださっている方々へのメッセージをお願いします。
私たちがこうして活動を続け、1部昇格という目標に本気で挑戦できているのは、日頃からチームを支えてくださる皆様のおかげです。ボランティアで指導に来てくださるコーチの方々、ご支援いただいているOBの皆様、そして日々応援してくださるすべての方々に、心より感謝申し上げます。
私たちは未経験者の集まりですが、全員でチームをつくり上げていく一体感と、この競技を心から楽しみ、全員で成長していく姿勢には、どこにも負けない自信があります。
今後も感謝の気持ちを忘れず、応援してくださる方々に結果で恩返しができるよう、日々努力を重ねてまいります。引き続き、温かいご声援のほどよろしくお願いいたします。