我流から脱却、データが変える野球の常識――九州工業大学硬式野球部
福岡六大学野球連盟に所属する九州工業大学硬式野球部。長年にわたってリーグ最下位が続く中、キャプテンの大谷絃さんは「まずはリーグ順位を1つ上げることを目標に掲げています。
長打不足というフィジカル面の課題と、柔軟な攻撃手段を欠く戦術面の課題。九州工業大学硬式野球部は、感覚や経験だけに頼るのではなく、データを活用した科学的なアプローチでこの2つに向き合っています。今回は大谷さんに、チームの現状と改善への取り組み、そして大学野球を通じて得た学びについて伺いました。
――九州工業大学硬式野球部の現状について教えてください。
福岡六大学野球連盟は6校で構成されていて、上位4にはは私立の強豪校が並び、国立大学の福岡教育大学と九州工業大学が下位に位置する構図が長く続いています。大。今シーズンはまず福岡教育大学に勝ち、1つ順位を上げることを目標にしています。春のリーグ戦では、私立校から3勝、福岡教育大学から2勝を挙げることを具体的な目標にしています。
――順位を上げるために、今何が必要だと考えていますか。
過去6年分のデータを分析したところ、上位チームと比べて長打が少なく、打球の強さに課題があることが見えてきました。動画で確認すると、対戦相手の打球には外野の頭を越える打球が多い一方、自分たちは外野の前で失速する打球が多い傾向が見られました。また、得点パターンを調べると、自分たちは連打に頼る得点パターンが多く、バントや盗塁といった柔軟な攻撃手段に乏しいことも分かりました。実際に勝った試合と負けた試合を比較すると、バントや盗塁などを絡めた攻撃ができた試合では、得点につながりやすい傾向も見えてきました。

――具体的にどのような改善策に取り組んでいますか。
フィジカル面では、トレーニングに詳しい学生から指導を受ける機会を設け、学ぶ機会をつくったほか、部員自身でも筋力トレーニングに取り組んでいます。戦術面では、実践形式の練習や連携プレーの時間を増やすよう練習メニューを見直しました。成果として数字に表れるのはこれからですが、日々の練習の中で意識づけを続けています。
――2チームのスローガンを教えてください。
チームではは「勝つ」ことをそのままスローガンに掲げています。私立の強豪校には、高校時代から高い競技実績を持つ選手が多く集まる一方、九州工業大学は国立大学という特性上、体格や選手層では差を感じる場面もあります。それでも勝つための体制づくりを最優先事項にしています。
――直近、新入生が大幅に増えたと伺いました。
22人の新入生が加わり、部員数はマネージャー2人を含めて26人になりました。新入生の増加には、SNSでの継続的な発信も影響したと考えています。以前はあまり運用できていませんでしたが、係を決めて毎週投稿を続けたところ、新入生にアンケートを取った際、約半数が「Instagramをきっかけに知った」と回答してくれました。前年度はは勧誘の時期と試合の日程が重なってしまい、新入生をほとんど迎えられなかった反省もあり、その分の力の入れ方が結果につながったと感じています。
――どのようなタイプの選手が多いですか。
自分たちの現状を冷静に捉える選手が多いと感じています。勉強もそれなりにできる一方で、自分の実力を冷静に捉え、現状に即して考える選手が多いと感じています。以前は、チームとして結果が出ない中で、競技へのモチベーションや目標設定にばらつきが生まれる時期もありました。一方で、新しい指導や知識を柔軟に取り入れる姿勢もあります。専門的な指導を初めて受けたときに一気に変わる選手を、これまで何度も見てきました。

――データを活用した「頭を使う野球」とは、具体的にどのようなものですか。
得点につながったプレーを整理し、グラフで可視化しています。。スイング速度とOPS、打率との関係など、数値データをもとに選手自身がプレーの意図を理解した上で、サインや戦術を実行できるチームを目指しています。監督の指示に従うだけでなく、自分のプレーとデータの結びつきを理解して動けることが、頭を使った野球だと考えています。これまでは、チーム内でデータを活用する文化が十分に定着しておらず、経験や感覚を重視する場面が多くありました。
まだ専門的な分析は自分たちの手探りの部分も多いため、今後は打球データを計測できる機器なども活用しながら、プロの知見も借りて精度を上げていきたいと考えています。
――大谷さんご自身、大学に入って野球に対する考え方が変わったそうですね。
高校まではどちらかというと自分本位に打つタイプでした。ただ、大学に入ってこのリーグのレベルの高さを目の当たりにして、その意識は大きく変わりました。相手校には、プロを目指すような高いレベルの投手もいます。正面から力だけで勝負するのでは、簡単には得点できないと痛感し、どうすれば得点できるかを考えるようになりました。この経験が、今取り組んでいるデータを活用した戦い方にもつながっていると感じています。
――福岡六大学野球連盟の魅力を教えてください。
高い競技力を持つ選手と、同じリーグで戦えることが一番の魅力だと思います。強豪校出身の新入生でも、入部後にこのリーグのレベルの高さに驚くことが多く、その環境に身を置けること自体が九州工業大学硬式野球部の経験として大きな価値になっていると感じています。
――運営面での課題を教えてください。
資金面では、部費と大学からの支援、OB会からの援助が主な財源です。専用のバスがないため遠征のたびにレンタカーを借りており、移動費や遠征費が負担になっています。企業から物品提供などの支援を受けた実績はありますが、本格的な仕組みとしては整っていません。より安定して活動を続け、フィジカル強化のための専門指導や機材の導入にも力を入れていくためには、外部からの支援も広げていきたいと考えています。

――最後に、意気込みをお願いします。
3長年続いてきた状況を変えるのは簡単ではありません。だからこそ、フィジカルと戦術というシンプルな2つの課題に、データという新しい視点を組み合わせて向き合うことで、九州工業大学硬式野球部ならではの野球ができると考えています。新入生の増加やデータ活用など、チームにはこれまでとは異なる変化が生まれています。まずは1つ、順位を上げること。今シーズン、そこに全員で挑んでいきます。
高い競技力を持つ選手たちと同じリーグで戦いながら、フィジカルや選手層の差を、データという武器で埋めようとする九州工業大学硬式野球部。感覚や経験だけに頼らず、選手自身が納得して動けるチームづくりを進める姿勢は、限られたリソースの中で成果を出そうとする組織づくりの一例として、これから社会に出ていく学生にとっても参考になるはずです。
九州工業大学硬式野球部
キャプテン:大谷絃
福岡六大学野球連盟に所属し、長年リーグ下位が長く続く中、フィジカルと戦術の両面をデータに基づいて強化している。チームでで「勝つ」ことをスローガンに掲げ、リーグ順位を1つ上げることを目標に活動している。