「百紫繚乱」日本一の組織を目指して——立教大学体育会
大学の部活を「体育会」と呼びますが、各大学には体育会を統括する「体育会本部」という組織があります。どのような学生が所属し、どういった活動をしているのか。体育会本部の活動内容や理念について、立教大学体育会本部に所属し、第八十一代立教大学体育会委員長を務める井上顕応さんに伺いました。

——体育会本部とは、どのような組織なのでしょうか。
体育会本部は、学生による自治組織です。立教大学体育会には野球部、サッカー部、陸上部などの運動部に加え、応援団や立教スポーツ編集部などを含む51部56団体が所属しており、体育会本部はその統括を行っています。
そもそもスポーツをするだけなら、プロのユース組織やクラブチームといった選択肢もあります。その中でなぜ、体育会(部活)でスポーツをやる意味があるのか。それは、体育会が大学の理念を体現する組織であるからです。立教大学は『専門性に立つ教養人』の育成を理念としています。体育会はその中で、『スポーツ』という専門性を通じて教養人を育てる場であると考えています。
もちろんスポーツですから、結果、勝ち負けはあります。しかし、その過程の中にこそ価値があると考えています。サークルは“コミュニティ”としてメンバーの居場所であることに大きな意義がありますが、部活動は共通のゴールを共有しその達成を目指して全員で努力するものです。この違いが本質だと考えています。もちろん優劣をつけるわけではなく、特徴として体育会はより“チーム”としての性質が強いと考えています。
コミュニティは仲良くなるための「居場所」的な意味合いを持ちますが、チームは全員が一つの目標を共有し、その達成のために協力し合い、努力し続ける組織です。極論として、チーム全員が仲良くなくてもよく、目標のために互いに切磋琢できる関係であればいいんです。その中に人間関係の難しさもあれば、醍醐味も詰まっていると思います。
目標に向かって努力する過程こそ、「人格の陶冶(とうや)」、すなわち生まれ持った資質や能力を、実践を通して磨き上げ、理想的な姿にまで形成・育成していくことになり、人間力を高める絶好の機会になると考えています。
——井上さんはなぜ体育会本部に入ろうと思われたのですか。
体育会本部には、そもそも体育会に所属する51部56団体のどこかに所属していないと入れません。2年生に上がるときに募集があり、志望理由書を提出し、面接を通してメンバーが選ばれます。
私は航空部に所属しているのですが、航空部でグライダーに乗るには、職業としてパイロットをしている方と同様の厳しい検査が課されます。実は入部したあとの身体検査で選手として飛ぶことは難しいと判断され、挫折を味わいました。選手のサポートという形で部活には在籍しているものの、もっと別の形で航空部に貢献できないかと考えていました。

その時に体育会本部の存在を知り、「なんかすごそうだな」と単純にワクワクしました。そして、私が体育会本部で活躍すれば、マイナーな部活である航空部の知名度も上がり、部に貢献することもできるのではないか、と考えて応募しました。
——体育会本部の活動はどんなものがありますか。
大きなイベントとしては、「フレッシャーズキャンプ」「ステップアップキャンプ」「リーダーズキャンプ」の3つを開催しています。
フレッシャーズキャンプは、体育会に入ったばかりの1年生全員を対象にして行う2泊3日の合宿形式のイベントです。体育会員としての自覚をもってもらうこと、部活・団体間の横のつながりを持ってもらうことを目的としています。

ステップアップキャンプは2年生の2月に日帰りで行われます。こちらは次年度に上級生になるにあたり、部を牽引する上級生としての在り方について、ワークやディスカッション、スポーツ大会を通して考える機会としています。
リーダーズキャンプは、3年生の中でも次期主将主務など、幹部候補が参加します。「リーダーとはどうあるべきか」というテーマで話し合ったり、普段は話せない悩みを共有したりもします。同じ立場にいる者同士だからこそ話せる機会を提供することで、そこでしかできないつながりをもたらし、価値を届けられていると感じています。
——井上さんが体育会に入って感じたことや、思いはありますか。
最初は体育会全員に向けたイベントをやっていて、なんだか楽しそうだなというイメージでした。しかし実際に入ってみたら、大きな目標達成の裏には毎日の小さな作業の積み重ねがあるのだなと気付かされました。
そして心の底から尊敬できる先輩に出会い、人と人とのつながりは素晴らしいんだと感じることができました。こんなにも人生において、努力や感動、価値を多くの人に届けられるのだと実感し、自分の人生が変わったと感じました。
——「努力、感動、価値を多くの人に届ける」とは具体的にどういったことでしょうか。
フレッシャーズキャンプを例に挙げます。入学したばかりの体育会員が集まるので、最初は全員初対面でぎこちない雰囲気なんです。まずは班分けをして、体育会の歴史や位置づけなどの座学、ホテルを貸し切ってのオリエンテーリング形式のクイズ大会を行っていきます。キャンプが終わる頃には、みんながすごく仲良くなっていて、「チーム」になっているのをあらゆる場所で見られました。
笑顔で「本当に楽しかった」と言ってくれる人、「本当はもう部活をやめようと思ったけど、フレキャンに来て踏みとどまろうと思った」と言ってくれる人もいて、それぞれの笑顔や幸せ、やる気の原動力の一つを作れたことにうれしさを感じました。想像以上の反響に驚いた記憶があります。

——日常的な役割としてはどのようなものがありますか。
常に、「立教大学体育会の発展」を考え、全力でサポートしています。体育会本部は企画部・渉内部・渉外部・情報宣伝部・会計部の5部署から構成され、それぞれの役割から立教大学体育会発展のために奔走しています。
例えば企画部なら行事運営、渉内部なら大学との連携や部活同士の調整といった棲み分けです。
InstagramなどのSNS運用のほか、去年の10月には、体育会公式アプリをリリースしました。こちらには51部56団体の実績を掲載し、体育会の活動がひと目でわかるようになっています。
体育会本部は、本部といえど他の体育会員と同様学生同士です。誰でもSNSやLINEなどで連絡が取れるようにし、また年に二回、各部の主将・主務と面談を実施しています。困り事があったら、いつでも本部に相談してほしい。「愛される本部、必要とされる本部」を目指して活動しています。
——委員長となって、新しく取り組んできたことはありますか。
今年のスローガンは、「百紫繚乱」です。立教大学のスクールカラーである紫は、ロイヤルパープル、王者の紫です。51部56団体のそれぞれの努力が花開き、体育会全体として美しい花を咲かせたい、という思いで決めました。
私は体育会本部で尊敬できる先輩方に出会い、各部・団体の選手や主務とも交流する中で、「こんなにいい環境と人材があるのに、立教大学体育会が日本一じゃないのは悔しい」という思いが大きくなってきました。委員長になってからは、「立教大学体育会と立教大学体育会本部を日本一の組織にする」と掲げて動いてきました。
ただ体育会全体としては、大会があるわけでもないし、なにをもって「日本一」というかは難しいところです。外部の方が「体育会といったら、立教大学体育会だよね」と言ってくださるような姿を目指して日々取り組んでいます。
具体的には、渉内部主導の下、今まで毎月オンラインで10分程度と形骸化していた主務会議を、対面で行うようにしました。主務ならではのお金や事務作業などの悩みを相談しあえる場所を作れたと思っています。
また、体育会オリジナルTシャツをリリースしました。これは体育会員しか購入できないようにしたのですが、1400枚もの注文がありました。普段の部活では自分の部の部員としか関わりませんが、これを着ていることで体育会員だとわかり、自分とは違うフィールドだけど、同じように努力している仲間がいるんだ、ということを可視化しました。

私個人としては「委員長のさんぽ」と称して、各部が練習しているところに実際に足を運んでいます。どういうチーム作りをしているのか、何が悩みなのかをヒアリングするのはもちろんですが、対面での関係構築によって本部との距離を縮めたいというねらいもあります。
——体育会本部の活動を通して得られたものを教えてください。
正直言って、ありすぎて言えないぐらいです。周囲の人からも「変わったね」と言っていただけることが多くなりました。自分の胸の中の思いを、多くの人の前で口に出して話し、そのために行動できるようになったことが、自分としては一番大きな変化です。
「日本一の組織を作る」と言うと笑う方もいますし、「そんなの綺麗事だよ」と言われたこともあります。でも「綺麗事」と言われようとも、理想の姿に向かって本気で取り組むことこそに価値があるのではないかと感じていますし、誰かがやらないと始まらないと考えています。
もちろん私の代だけではすぐ日本一になるというのは難しいので、この思いを後輩たちに引き継いでいきたい。立教大学体育会が日本一を目指す、今年度はそのきっかけの年と位置付けています。
井上顕応
立教大学経営学部4年、航空部所属。2年時より体育会本部でも活動を始め、2025年度立教大学体育会委員長。小学校から立教で学び16年目、「立教愛は誰にも負けない」。
取材・執筆:藤井みさ(株式会社スリーレター)