混沌は芸術なり。衝動のままにカルチャーを再構築する——日芸グラフィティサークルGrough
日芸グラフィティサークルGrough(以下、Grough)は、グラフィティアートを軸に活動する日本大学芸術学部(以下、日芸)の学生団体です。
2024年に設立されたばかりの新しいサークル。しかし、その活動は単なる“落書き”の枠には収まりません。グラフィティをデザインとして分解し、再構築し、アパレルや立体作品、さらには音楽や映像へと展開していく。そこには、ストリートカルチャーへの敬意と、自分たちの衝動を表現へと昇華させたいという想いがあります。
今回は、サークルを立ち上げた2年生の小屋旺崇さんにお話を伺いました。

——貴団体の概要について教えてください。
日芸グラフィティサークルGroughは、「グラフィティアートを基準に、自分たちの好きな文化を分解し、混ぜ合わせ、再構築する」ことをテーマに、2024年に設立されました。
単にグラフィティを描くだけではありません。自分たちがこれまで触れてきたカルチャーや価値観を“デザイン”として再解釈し、それをアパレルや立体作品など別の形へと落とし込んでいくことが主な活動です。
活動は日本大学芸術学部 江古田キャンパスで、毎週水曜日18時〜19時に実施しています。月によってはメンバーの予定に合わせて日程を調整することもあります。
2025年12月時点でのメンバーは12名(1年生4名、2年生6名、3年生2名)。男女比は男性10名、女性2名(約5:1)です。芸術学部の学生が中心ですが、やる気があれば他大学や大学院生の参加も可能です。実際に武蔵野美術大学の学生も在籍しています。

——グラフィティアートについて詳しく教えてください。
グラフィティ(Graffiti)とは、建物の壁や電柱などに描かれる文字や絵を指します。ステッカーやタギング、バブル、ステンシルなど多様な手法があります。
ただし、日本では公共物への描画は法律上認められていません。そのため私たちは、グラフィティを“路上の落書き”ではなく、“デザインの手法”として捉え、キャンバスや画材を使って表現しています。路上文化へのリスペクトを持ちながら、合法的かつ創造的に表現する。それが私たちのスタンスです。
——サークルを立ち上げようと思ったきっかけは何ですか?
当時の日芸には、ヒップホップやストリートカルチャーに触れられる場がほとんどありませんでした。ミュージカル研究会や軽音部などの文化系サークルはありますが、自分が求めているものとは少し違うと感じていたんです。「ないなら、自分でつくろう」と思ったのがきっかけです。
伝統的で整ったカルチャーも素晴らしいですが、ヒップホップやストリートの“自由さ”が好きな人もきっといるはず。詳しくなくても、興味さえあれば参加できる環境をつくりたいと思いました。

——小屋さん自身のヒップホップの出会いについて教えてください。
私がヒップホップに出会ったのは、幼少期でした。父が90年代にヒップホップやストリートカルチャーに関わっていた人で、家では常にヒップホップが流れていました。その影響で中学・高校時代も自然と聴き続けていて、国内外問わずさまざまなアーティストに興味を持つようになりました。
特に90年代〜2000年代のヒップホップを聴くことが多く、具体的なアーティスト名を挙げると、SOUL SCREAM(ソウルスクリーム)やSHAKKAZOMBIE(シャカゾンビ)、THA BLUE HERB(ザ ブルーハーブ)などが好きです。
ただ、これはあくまでも私の例で、サークルメンバー全員が同じ熱量というわけではありません。実際にヒップホップに詳しくない人もいます。それでも一緒に楽しめるのが、このサークルの良さだと思っています。
——具体的な活動内容について教えてください。
サークルの中で特に大きな活動は、文化祭(日芸祭)や自主的に開催しているポップアップイベントです。日芸祭は毎年11月の月初に開催されることが多く、1年に一度、自分たちの作品を外部に向けて発信できる機会になります。
普段は教室内で制作していますが、内輪だけの活動では、ある意味“路上のグラフィティ”と変わらない部分もあると感じています。誰が描いたのかも分からず、どこにあるのかも分からない。だからこそ、定期的に自分たちの作品を表に出して、評価を受ける機会をつくることを大切にしています。

——活動の中で、印象に残っている出来事はありますか?
1月に開催したポップアップイベントで、メンバーの立体作品が開始から10分で売れたことです。3,000円という価格で実際に売れたことで、「表現が価値になる」という実感を得ました。私自身もアパレル制作をしていて、最初に作った7,000円の商品がすぐに売れた経験があります。自分のデザインが選ばれる瞬間は、やはり特別です。
描くだけでなく、外に出して、評価され、購入してもらう。その循環が、活動のやりがいにつながっています。
——刺激を受けている団体はありますか?
東京大学のストリートアート同好会(UTSCC)です。UTSCCさんは規模も大きく、戦略的に活動を展開されています。定期的に交流やイベント参加もさせてもらっています。
彼らが「戦略的に広げていく組織」だとすれば、私たちは「衝動から始まり、形にしていく組織」です。私たちの「面白そうだからやろう」という軽やかさは強みです。ただ、長期的な運営という観点では、戦略性も取り入れていきたいと思っています。

——現在の課題は何ですか?
現在の課題は、2つあります。
一つは部員数の維持です。今は全員で12名で、今年は新入部員が3名入ってきてくれました。この調子で定期的にメンバーを増やしながら、私が卒業するまでに10人以上は安定して残っていてほしいと考えています。部員の比率的に特に女性部員が少ない(男10・女2)点も課題の一つ。男女比のバランスを整えたいというよりは、女性目線のデザインも加わると、もっと幅が広がるはずだと考えているので、いろんなメンバーがもっと増えてほしいと思っています。
二つ目は活動費です。私たちの活動は、必然的に画材費がかかります。たとえば活動で使用する水性顔料マーカーは1本200〜300円、スプレーは1,000〜2,000円ほどかかります。現在は部費を徴収していませんが、今後は年間5,000〜6,000円程度を集めながら活動するかもしれません。企業との連携による画材提供や壁面制作の機会があれば、挑戦してみたいです。
——新入生に向けてメッセージをお願いします。
私たち日芸グラフティサークルGroughは、未経験大歓迎です。むしろ未経験の人のほうが多いので安心してください。他大学や他学部のメンバーもやる気があれば参加可能です。2025年からは、音楽配信やアパレル、作品集などいろいろなことにも手を出し始めています。自由に表現したい人、新しいことを始めたい人にはぴったりの環境です。体験はいつでも受け付けていますので、気軽に覗きにきてください。ぜひお待ちしています。

ゆるく描く時間と、本気で作品をつくる時間。日芸グラフィティサークルGroughには、その両方が共存していました。学生だからこそできる衝動的な挑戦が、ここにはあります。
好きなカルチャーを分解し、再構築しながら形にする。その経験は社会に出たあとも企画力や発想力の源になっていくでしょう。
執筆:青木千奈(株式会社Koti)