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70年続く志を舞台でつなぐ、感情をぶつけ合う舞台づくり——殺陣同志会

日本大学芸術学部の「殺陣同志会」は、舞台上で殺陣を表現する学生団体です。活動は主に月曜と水曜と金曜の週3回です。木刀を手に稽古を重ね、日藝祭では大ホールで公演を行っています。目指しているのは、ただ型をなぞる殺陣ではなく、感情を乗せた“芝居としての殺陣”です。芯と絡みが噛み合った瞬間、舞台上の空気が変わるのを感じます。その一瞬をつくるために、日々地道な稽古を積み重ねています。70年近く続いてきた団体の、今の姿を伺いました。

 

 

——殺陣同志会とはどのような団体でしょうか?

 

私たち日本大学芸術学部の殺陣同志会は、舞台上で“命のやり取り”をリアルに見せることを目指す団体です。活動は主に月曜日と水曜日と金曜日の週3回です。稽古場に入ると、木刀が静かに床に並び、先輩が後輩の間合いを細かく修正する声が響きます。一見すると厳しい空気に見えますが、根底には「本気でうまくなりたい」という共通の熱があります。

私たちが取り組んでいるのは、単なるアクションではなく“芝居としての殺陣”です。時代劇の世界観の中で、登場人物の背景や感情を背負いながら立ち回りを作り上げていきます。斬る側を「芯(しん)」、切られる側を「絡み」と呼び、互いの呼吸が噛み合った瞬間、舞台上に緊張感が走ります。その一瞬のために、日々技術を磨いています。

大きな節目となるのが、毎年行われる日藝祭での公演です。大ホールを使い、部員総出で一つの作品を創り上げます。今年はさらに2月に自主公演も予定しており、現4年生はその舞台を区切りに卒業します。

 

 

——殺陣は演劇なのでしょうか?それとも武道なのでしょうか?

 

私たちの殺陣は、武道ではなく“芝居”です。刀を扱う以上、間合いや体の使い方といった武道的な要素は欠かせません。ただ、それだけでは舞台として成立しません。目指しているのは、「本当に命のやり取りをしているように見せること」です。

同じ斬られ方でも、怯えなのか、怒りなのかで見え方はまったく変わります。刀を振っているようでいて、実は感情をぶつけ合っているのです。

 

——まずは「絡み」から教わるとのことですが、なぜでしょうか?

 

殺陣と聞くと、どうしても“斬る側”が主役だと思われがちです。でも、私たちはあえて「絡み」、つまり切られる側から教えます。理由は単純で、絡みの方が圧倒的に難しいからです。

芯は動きの軌道や立ち位置が比較的決まりやすい一方で、絡みは相手の呼吸やスピードに合わせて動きを変えなければいけません。ほんの少しタイミングがずれれば、怪我にもつながりますし、何より舞台上で“嘘をつくことになってしまいます。

だからこそ、私たちはまず“受ける力”を鍛えます。芯を引き立たせるために、「絡みは芯より何倍も動く意識で」とよく言っています。全力で食らいつき、必死に逃げ、必死に倒れる。その姿があるからこそ、芯の一太刀が生きてきます。

 

 

——なぜ稽古場はあえて“ピリつく空気”なのでしょうか?

 

木刀を持って向かい合う以上、少しの油断が怪我につながるからです。「間合いが近い」「刀を自分の視界に収めろ」といった指摘がその場で飛びます。安全面は、何よりも優先しています。

稽古では木刀、本番では竹光を使います。竹光は軽い分、油断せずコントロールを徹底する必要があります。だからこそ、間合いとコントロールを徹底して教えます。

さらに、ただ動きを覚えるのではなく、状況を設定します。相手が冷酷な殺し屋ならどう怯えるかまで想像します。同じ型でも、感情が違えば動きも変わります。

本気でやるから、空気が張りつめ、舞台で“本物”に見える瞬間が生まれるのだと思います。

 

——コロナ禍前の殺陣同志会について教えてください。

 

先輩方から聞くコロナ禍前の盛り上がりは、とにかく“熱量が異常だった時代”だそうです。週に5回稽古を行い、生活の中心が殺陣だったと聞きます。技術レベルも高く、卒業後にそのまま舞台や映像の世界へ進む人も多いと教わりました。

ただ、私たちはその話を「昔はすごかった」で終わらせるつもりはありません。コロナ禍で一度流れが途切れたからこそ、今は、稽古のやり方や安全管理を見直しながら、もう一度土台を作っている段階です。闇雲に量を増やすのではなく、1回1回の稽古の質を上げる。安全管理も徹底し、時代に合った形で熱量を取り戻そうとしています。

去年の日藝祭では、OB・OGの方から「技術はこれからだが、熱は戻ってきた」と言っていただきました。今の私たちは、ただ過去をなぞるのではなく、次の全盛期をつくろうとしている世代です。守るべき伝統は守りながら、より強い形へ進化させている最中だと感じています。

 

——なぜ上下関係や“作法”をそこまで大切にしているのでしょうか?

 

殺陣同志会では、稽古が始まる前から空気が整います。上座下座、挨拶、返事――そうした礼儀作法を、稽古の一部として徹底しています。

正直に言えば、最初は少し堅いと感じる人もいると思います。でも、刀を持って向き合う以上、相手への敬意がなければ成立しません。

一方で、稽古が終われば空気は一変します。後輩も先輩も関係なく、わちゃわちゃと笑い合う。芝居のアイデアを出すときは、あえて思い切り振り切って、場をほぐすこともあります。ふざけた中から、意外な発見が生まれることも多いからです。

 

 

——最後に応援してくれる人へのメッセージをお願いします。

 

殺陣同志会は、決して大きな団体ではありませんし、潤沢な資金があるわけでもありません。それでも70年続いてきたのは、先輩方が本気で向き合い、その背中を次の世代が見てきたからだと思っています。

今、私たちはそのバトンを受け取る側にいます。劇場費や道具代など、学生だけでは簡単ではない挑戦もあります。

もしこの活動に少しでも可能性を感じていただけたなら、舞台を観に来ていただけるだけでも励みになりますし、応援という形で関わっていただけたら、それは大きな力になります。

目の前の一回の稽古を本気でやり切る——その積み重ねでしか、次の景色は見えないと思っています。私たちの挑戦を、ぜひ見守っていただけたら嬉しいです。