“和の力”で強豪を超える。戦術で挑む知の集団——東京大学運動会フットサル部
東京大学運動会フットサル部は、サークルから部活へ昇格した歴史を持ち、“考えるフットサル”を武器に強豪校へ挑み続けるチームです。
部の愛称「さんぱち先生」は、前身となる2つのサークル名を組み合わせたもので、今も親しまれる象徴的な名称となっています。
部の理念は『以和征技』
限られた練習環境の中でも、関東大学リーグという逆境の中で、一人ひとりが主体的に考え、戦術で勝負する姿勢を貫いてきました。
“考えるフットサルで強豪を越える”という彼らの挑戦の背景には、どのような工夫や取り組みがあるのか。
今回は、主将の近江悠介さんにお話を伺い、主体性のある練習に対する想いや、外部との関わりで意識していること、これからの目標についてお伝えしていきます。

——東京大学運動会フットサル部の愛称は「さんぱち先生」と伺いました。名前の由来を教えてください。
部の前身である2つのサークルの名前が由来です。1つは文科3類8組を中心に結成されたサークルでもうひとつは当時の担任の名前をもじったサークルです。当時は別のサークルとして活動していましたが、あるタイミングで統合する際、それぞれのサークル名を組み合わせて “さんぱち先生”になりました。遊び心のあるネーミングですが、今では東大フットサル部の愛称となり、正式な部活になった現在も親しみを込めて使い続けています。
——部の活動場所や、主な活動時間を教えてください。
東京大学運動会フットサル部は2019〜2025年の審査期間を経て、2025年3月に正式に部活として認められた歴史の新しい部活です。活動拠点は東京大学本郷キャンパスで、練習は週3〜4日。
火曜:朝=セカンド練習/夜=トップ練習
木曜:全体練習
金〜日:トップ・セカンドに分かれ試合または練習
学業との両立を大切にしつつ、このように限られた環境でも最大限成果が出るよう練習を最適化しています。
——メンバー構成や特徴を教えてください。
メンバー構成は1年生9名、2年生11名、3年生10名、4年生5名の合計35名(うちマネージャー3年生1名、2年生3名)で、文理比率は「文系:理系=4:6」です。(取材当時)年間スケジュールは、3月に七大戦、4月から新歓で新メンバーを集め、5月から試合に臨みます。
大きな目標は5月から8月まであるインカレと6〜11月の関東大学リーグです。他にも並行して七大戦、双青戦や東京都大学リーグもあり、日々実践を通してチームの団結力を深めています。

——チームのスローガン『以和征技』に込められた想いはありますか?
『以和征技(いわせいぎ)』とは、“和を以て技を征す” という意味です。フットサルは個人のスキルが目立ちやすい競技ですが、私たちが大切にしているのは、個々の技術が優れた相手に対し、チームワークで凌駕できるよう取り組むことです。
どれだけ優れたプレーヤーがいても、チームとしてまとまらなければ勝つことはできません。日々の声かけや練習の雰囲気づくりなど、目に見えない“和の力”を積み重ねることで勝利へとつなげていこうという想いが込められています。
——一人一人が主体的に考えてプレーできることが強みと伺いました。主体的なチームをつくる上で、役割分担など意識していることはありますか?
東京大学フットサル部は、全員が部内で役割を担う仕組みをつくっています。たとえば公式戦登録・施設予約・備品管理などを細分化し、全員が担当を持つ仕組みを採用しています。役割を持つことで当事者意識が育ち、その姿勢がピッチ上の判断力にもつながっています。学年ごとに選出された幹部と主将・副主将が全体の方向性をまとめます。幹部はピッチ内外の意思決定を支えつつ、必要に応じて議論を促し、部の方向性を整えていきます。
上下関係は厳しすぎず、意見があれば誰でも発言できる雰囲気があるのも特徴です。役割を持つことで当事者意識が自然と育ち、それがプレー中の判断力や主体性にもつながっていると感じています。
——日々の練習を組み立てる中で意識していることはありますか?
大切にしているのは、“今のチームに必要なもの”を明確にしたうえでテーマを設定することです。直近の試合や対戦相手を分析し、強みを伸ばすのか、弱点を補うのか、どの局面を改善したいかなどを整理してからメニューを組み立てています。
練習は、最初は1〜2人の小さな関わりから始め、徐々に2人、3人、4人とグループを広げ、最後は5対5のゲーム形式で落とし込む流れが基本です。段階的に積み上げることで、実践の場でも再現しやすくなるよう工夫しています。試合で再現されなかった要素があれば、練習後に原因を共有し、次回練習で別メニューを試すなど、常にPDCAを回しながら改善しています。一つひとつの練習に理由を持たせ、全員が理解した状態で取り組めることが重要だと考えています。

——他の大学からは“やりにくいチーム”と呼ばれるそうですが、その所以はありますか?
対戦相手からよく言われるのは、「とにかく崩しづらい」ということです。私たちは練習時間や日程などのリソースが限られる分、守備から試合をつくり、相手の強みを出させない戦い方を徹底しています。
試合前には相手の特徴や弱点を細かく分析し、「どこを消すべきか」「どこを突くべきか」を共有したうえでゲームに臨みます。「崩しづらい」と言われる背景には、①緻密な守備設計、②相手分析の徹底、③試合ごとに変える戦術パターンがあります。相手の強みを“出させない”試合運びができるため、“やりにくい”と評価されます。また、技術だけでなく“戦術で戦う”姿勢を貫いているのも大きいと思います。そうした「考えるフットサル」が、他大学から見ても私たちの強みになっているのは励みになります。
——スポンサーや外部との関わりで意識していることを教えてください。
2025年度は特に外部との接点づくりを強化しました。スポンサー契約の獲得、プロ選手へのアプローチなど、自分たちから積極的に外へ開く活動を実施。企業との交流を通じて競技面・社会人基礎力の両面で学びが増えています。
協賛していただく企業の方には、“学生スポーツを応援したい”という思いで関わってくださる方も多く、そうした応援の気持ちに応えられるよう、日々の活動をより丁寧に積み重ねたいと感じています。部としては、就活支援だけでなく、純粋に僕たちの挑戦を応援してくださる企業と、一緒に価値をつくっていける関係を大切にしたいと考えています。
——部活を通じて得たもの、学んだことは何ですか?
結果が欲しいのであれば、それに見合う準備が必要だという教訓です。準備したことが結果につながるのは当たり前のことですが、フットサルではその“当たり前”が勝敗というシビアな形で突きつけられるため、重みがまったく違います。試合分析の甘さがそのまま失点につながったり、細かな詰めの差が勝敗を左右したりする経験を繰り返す中で、「少しの妥協が大きな後悔につながる」ことを痛感しました。だからこそ、どんな小さな準備も疎かにせず、できることを最大限やり切る姿勢が身についたと感じています。
——部としての目標は何ですか?
2022年度を最後に届いていないインカレ全国大会出場が、チームにとって最も大きな目標です。同時に、関東大学フットサルリーグでの上位進出も重要な目標に掲げています。東京都で1位を取らなければ関東大会へ進めないという厳しい環境の中で、強豪校相手にどう戦うかが私たちの課題です。個の力だけではなく「頭を使って戦うこと」と「チームとしての強みを最大化すること」を武器に、再び全国の舞台を目指しています。

——最後に、日々応援してくださる方々にメッセージをお願いします。
いつも東京大学運動会フットサル部を応援してくださり、誠にありがとうございます。
私たちは大学生活という自由度の高い時間の中で部活としてスポーツを続ける選択をし、日々フットサルに真剣に向き合っています。大学フットサルは競技力が年々向上しており、リソースに限りのある私たちには逆風となっています。そんな中でも、私たちの持てる「一人一人が主体的に考える力」を武器に逆風に抗い、高みを目指し続けていきたいと考えています。引き続きご支援のほどよろしくお願いいたします。
強豪ひしめく厳しい環境の中で、“和の力”と“考える姿勢”を積み重ねてきた彼ら。限られた条件の中でも前へ進むための工夫と挑戦は、きっと社会に出たあとも揺るがぬ自信となり、彼らを支え続けるでしょう。知で戦う彼らが、これからどんな未来を切り拓くのか──その続きが楽しみでなりません。
執筆:青木千奈(株式会社Koti)