OBも教授も70代も。学生バーが生む“世代を超えた居場所”——神戸大学 cafe&bar monocro
給料はない。店長もいない。引き継いだときには、その月の家賃にも苦しむほどでした。それでも店員である神戸大学の学生8名は、20年続く一軒のバーを自分たちの手で守り続けています。神戸・六甲道にある「cafe&bar monocro」は、外部からのスポンサーも支援もなく、学生だけが自分たちでお金を出し合って運営する、全国でも珍しい存在です。なぜ彼らは、ここまでこの場所に本気になれるのか。今もこの場所を動かし続けているスタッフの金城さんにお話を伺いました。

——「cafe&bar monocro」について教えてください。
私たちは、神戸大学の学生8名で運営している「cafe&bar monocro」です。神戸・六甲道にある実店舗を拠点に、毎晩20時から深夜2時まで営業しています。スポンサーもなく、店長というポジションも存在せず、8名全員が対等な立場で店の運営を担っています。。創業からは、ちょうど20年が経ちます。初代スタッフが資金を集めて店を借りたところから始まり、以来2年ごとにスタッフが入れ替わりながら引き継がれてきました。
コンセプトは、「バーを知らない学生に、大人の世界の入り口を提供すること」です。1杯300円からでチャージも不要にしているのは、敷居を下げてバーという文化を気軽に体験してもらいたいからです。居酒屋とも価格で張り合えるくらいの設定を意識しています。お客様の内訳は、学生と一般の方がおよそ半々です。

——なぜこのバーの運営に参加しようと思ったのですか?
学生と大人がカウンター越しにお酒を飲みながら語り合う場は、今の社会にはなかなかありません。私自身、もとはこの店の客として通っていました。学生だけでお金を出し合い、完全に自分たちだけで切り盛りしているという珍しい形に惹かれ、大学生活の中でこれほど濃い経験は他にないと思って運営に加わることを決めました。
実を言うと、この活動にお給料は一切出ていません。それどころか、私たちがこの店を引き継いだ時点では、現金がほとんど残っていない状態からのスタートでした。お酒を扱う飲食店としての責任や、20年という歴史を背負う大変さはあります。それでもこの場所を離れないのは、ここでの仕事に何にも代えがたい面白さがあり、自分たちの手でこの場所を守り抜くことに大きなやりがいを感じているからです。
——ギリギリな状況で運営していた当時について教えてもらえますか?
去年のちょうど今頃、私たちは大きな壁にぶつかっていました。赤字が続き、家賃の支払いも含めて、店の運営は常にギリギリの状態でした。スタッフ全員が将来への不安を抱えていて、当時の店内にはどこか張り詰めた空気が流れていました。その雰囲気は、知らず知らずのうちにお客様にも伝わってしまっていたと思います。
ただ、私たちは「店を閉める」という選択肢だけは考えていませんでした。下の世代に課題を残したまま終わるわけにはいかないという思いが、全員の中にあったからです。そこで、「今日、この一晩を本気でやり切ろう」と改めて気持ちを揃え、一人ひとりのお客様と向き合う姿勢を見直しました。
そこから少しずつスタッフ同士の空気も変わり始め、「どうすればお客様にまた来たいと思ってもらえるか」を全員で考えながら運営するようになっていきました。

——その苦しい状況をどのように乗り越えましたか?
転機となったのは、ハイボールを300円で提供するキャンペーンの実施でした。それまでは焼酎が500円、その他のお酒は600円からという設定でしたが、学生がより足を運びやすい価格の変更へと踏み切りました。
単価を下げれば利益が減るのではないか、という不安もありました。しかし結果は想定とは異なるものでした。300円に値下げしたことをきっかけに新しい学生のお客様が急増し、そこから他のお酒も注文してくださるようになったのです。客数自体が増えたことで、結果として全体の売上は大きく上がりました。
同時にInstagramでの発信にも力を入れました。毎日のオープン告知はもちろん、おすすめのカクテル紹介を丁寧に行い、お客様との接点を増やしました。こうした地道な努力を続けた結果、黒字化ができ、内装などに投資ができる余裕もできました。
——「リーダーがいない」という組織で、どのように物事を決めているのですか?
全員が対等な関係の中で、意見を一つにまとめることは決して簡単ではありません。価格の設定やイベントの方向性を決めるときも、全員が納得するまで徹底的に話し合います。時には意見がぶつかることもあります。
しかし、責任者がいないからこそ、全員が「自分の店だ」という当事者意識を持って動いています。「誰かに任せておけばいい」と考える人は一人もいません。300円ハイボールの施策も、最初は「慎重になった方がいい」という意見もありましたが、自分たちの身銭を切って運営しているからこそ、議論は常に本気でした。
役割分担も工夫しています。お金の管理を担当するスタッフが、家賃や光熱費、売上を厳密にチェックし、毎月のミーティングで全員に共有します。こうした経営の裏側を学生だけで完結させることで、私たちは単なる「仲良し」ではなく、一つのチームとして機能しています

——20年という長い歴史は、今の皆さんにどんな力を与えていますか?
「2年でスタッフが全員卒業する」という決まりがあるからこそ、私たちは「この2年をやりきらなければならない」という強い熱量を持つことができます。限られた時間だからこそ、一つひとつの瞬間に本気になれるのです。
また、20年分のOBの存在も、私たちの大きな支えです。以前、歴代のOBに声をかけ、当時のようにカウンターに立ってもらう企画をしました。現在は40代になり、ご家族もいらっしゃる先輩方が、当時と変わらぬ笑顔で「まだ続けてくれてありがとう」と言ってくださったとき、この場所を繋いできた重みと喜びを強く実感しました。
こうした歴史の積み重ねがあるからこそ、新しい企画にも迷わず全力で取り組めます。例えば、夏には36時間連続で店を開け続けたり、ハロウィンにはスタッフだけでなくお客様も一緒になって仮装を楽しんだりしました。ときには70代の常連の方が、私たちに負けないくらい本格的な仮装をして来店してくださることもありました。冬にはカウンターにカセットコンロを並べ、みんなで一つの鍋を囲む「鍋営業」も行いました。こうした手作りの企画の一つひとつが、単なる飲食店としての枠を超え、世代を超えた心の距離を縮める大切なきっかけになっています。
——この場所での活動を通して、どのような変化がありましたか?
1日6時間カウンターに立ち続けると、初対面の人を含めて10人以上と話すことになります。もともと多く話すタイプではありませんでしたが、人と話すのが楽しいと思えるようになりました。
それだけでなく、場全体を見る目が変わりました。誰がまだ話せていないか、誰が輪に入れていないか、自然と気になるようになったのです。飲み会の場でもそういった感覚が働くようになったのは、毎晩カウンターに立ち続けた経験があってこそだと思っています。
また、8名が本気で意見をぶつけながら一つの方向に向かっていくという経験は、一般的なアルバイトでは得られないものだと思っています。
8名のスタッフがそれぞれ異なるコミュニティを持ち、それぞれの繋がりからお客さんが来てくれるという構造も、学生が運営しているからこそ生まれるものです。一般の大人にとっても、学生と気軽に話せる場所は意外と少ないものです。「頑張ってる学生を応援したい」という気持ちで来てくださっている常連の方も多いですし、15年以上通ってくださっている方もいます。接客をしていたら店の元スタッフだったと判明することもあります。そうした繋がりも、この店を通して得られたかけがえのない財産です。

——いつも応援してくださっている方々へのメッセージをお願いします。
いつも足を運んでくださっているお客さん、本当にありがとうございます。スタッフは2年ごとに入れ替わりますが、変わらず来てくださる方がいるからこそ、この店は続いてきました。15年以上通い続けてくださっている方、苦しい時期に助けてくださったOBの先輩方にも、改めて感謝を伝えたいです。
これを読んでいる学生の皆さんへ。もし少しでも「面白そうだ」と感じるものがあれば、失敗を恐れずに飛び込んでみてほしいと思います。給料がなくても、時には壁にぶつかっても、ここで得た経験と繋がりは、一生残る自分の力になります。
神戸・六甲道に来ることがあれば、ぜひ一度私たちのカウンターを覗いてみてください。少し賑やかかもしれませんが、どこよりも温かい居心地の良さを用意して、スタッフ一同お待ちしています。