体育会人材の強みは「根性」ではない。アメフトの挫折から学んだ、ビジネスで勝つための「逆算思考」とは——東海大学アメリカンフットボール部OB 金子知広
体育会系の人材は、体力と根性があるから重宝される。そんなイメージを持つ学生や企業は少なくありません。しかし、ブライエッジ株式会社で新規開拓のリーダーを務める金子知広さんは、「体育会で培われる本当の強みはそこではない」と語ります。
東海大学のアメリカンフットボール部時代、小柄な体格を補うために40kgの増量に取り組みました。その過程でイップスという大きな挫折も経験しましたが、自分に足りない要素を客観的に分析し、試行錯誤の末にレギュラーを獲得。最終的にはチームの1部リーグ昇格にも貢献しました。その後は食品業界を経て、自身のビジネススキルを磨くために未経験で人材業界へと転職しています。
本記事では、金子さんが挫折をどのように乗り越え、スポーツで培った目的から逆算する力を現在のビジネス現場でどのように活かしているのかを伺いました。
——金子さんの簡単なご経歴と、現在のお仕事について教えてください。
学生時代は、高校・大学の計7年間にわたってアメリカンフットボールに打ち込んでいました。東海大学のアメフト部では2部から1部リーグへの昇格を経験しています。
卒業後のキャリアについては、現役時代の増量を支えてくれた「食」への感謝から、まずは食品業界に入社しました。しかし、社会人として働く中で、「自分自身のスキルをより根本から鍛え上げ、企業の経営課題の解決に直接関わりたい」という思いが強くなりました。その結果、人材・組織コンサルティングの世界へ挑戦することを決め、ブライエッジ株式会社に入社しました。現在は法人向け新規開拓部門のリーダーを務めています。

——高校時代から打ち込んでいたアメフトですが、大学でも続けようと思った理由は何でしたか?
当初は継続するつもりはありませんでしたが、実際に一般的な大学生活を送ってみると物足りなさを感じ、「もう一度本気で何かに没頭したい」と考えるようになったことが最大の理由です。
高校時代は部員11人のみのアメフト部でキャプテンを務め、攻守ともに試合に出続ける環境でした。高校3年時には足を骨折し、ボルトを入れた状態で最後の試合に出場したこともあり、自分の中ではアメリカンフットボールはやり切った感覚がありました。
加えて、在籍していた高校は大学の付属校であり、大学生と合同練習をする機会がありました。当時の私にとって、自分よりはるかに体が大きい大学生は非常に怖い存在でした。そのため、大学でもう一度アメフトをやるという選択には大きな迷いもありました。それでも、大学生活の中で「本気で熱中できるものが欲しい」という気持ちが次第に強くなり、「怖いと感じていた先輩方よりも自分がもっと強くなればいい」と覚悟を決めて入部しました。
——強豪の大学アメフト部において、周囲との体格差という壁にはどう向き合ったのでしょうか?
とにかく体を極限まで大きくして、重心の低さとスピード、そして勢いで勝負することにしました。
当時の東海大学のアメフト部は、身長が170cm台後半で体格に恵まれた大柄な選手ばかり。一方で、私は身長があまり高くなく腕も短かったため、相手を腕で制するというアメフトのセオリーが通用しませんでした。そのため、フィジカルを根本的に強化する必要があると考えました。
入部当初から徹底的にトレーニングを行い、1日に5〜6食、多い時はお米を1升食べる生活を続けました。日々継続することは決して容易ではありませんでしたが、十分な食事を摂れる環境のおかげで、体重は入部時から約40kg増加し、最終的に100kgを超えました。

——その増量の過程で、大きな挫折を経験されたと伺いました。当時の状況を教えてください。
足の疲労骨折をきっかけにイップスに陥り、まともに走れなくなりました。
大学2年生の時、短期間で体重を約10kg増やしましたが、筋肉の成長が追いつかず、足を疲労骨折してしまいました。骨折自体は時間の経過とともに回復しましたが、その後、走ろうとしても身体の動きが噛み合わなくなり、思うように走れない状態が続きました。
明確な原因は今も分かっていませんが、「自分が試合に出て重要な場面でミスをすれば、チームが負けてしまうのではないか」という恐怖心が無意識に影響していたのだと思います。当時の映像を見返すと動きも不自然で、自分の中では「これでアメリカンフットボール人生は終わった。」と絶望しました。
——試合に出ることへの恐怖心がある状態から、どのようにしてスタメンに復帰できたのでしょうか?
ポジションを変更し、「走れない分を圧倒的なパワーで補う。」という新しい戦い方を確立できたことが、復帰につながりました。
当時、コーチやトレーナー、先輩方から「ポジションを変えて再挑戦してみてはどうか」「筋肉をつけて自信がつけば変わる。走れない分は他で補えばよい」といった助言をいただきました。その言葉をきっかけに、「もう一度グラウンドに立ちたい」という本来の目的を再認識しました。
そこから必要な行動を逆算し、新しいポジションに必要な知識や動きを習得するとともに、体重もさらに20kg増やしました。段階的にトレーニングを重ねた結果、自分の強みが明確になり、大学3年生からはスタメンに復帰。そして4年生の最終戦、2部から1部への昇格を懸けた入れ替え戦に勝利して引退した時には、イップスを完全に乗り越えていました。

——アメフト引退後の就職活動や、現在の人材業界へキャリアチェンジした背景について教えてください。
学生時代の就職活動では情報収集が不十分で、視野が狭いまま意思決定をしてしまったという反省がありました。
当時は大学の近くに住み、日常は家と大学とスーパーを往復するアメフト中心の生活。そのため都心に出る機会も少なく、外部の情報に触れることがほとんどせず、十分な情報収集ができないまま、1社目の進路を決めてしまったという後悔がありました。
キャリアチェンジの際にはその経験を踏まえ、エージェントに積極的に相談しました。これが大きな転機となっています。営業としてキャリアを再構築するにあたり、様々な選択肢を提示されました。
その中で、ヘッドハンティング型での人材紹介であれば、企業の経営者と優秀な候補者の双方を担当し、企業の経営課題と個人のキャリア形成の両方にアプローチすることができ、ビジネスパーソンとしての市場価値を高められると判断しました。その結果、現在の会社を選択しました。
——未経験で人材業界へ入社した後、アメフトでの経験が直結したと感じる場面はありましたか?
新規開拓営業の進め方が、アメフトにおける相手チームの分析と本質的に同じだと気づいた時です。
入社直後は企業の経営者に対してヘッドハンティングの電話をかける日々でしたが、最初はなかなか成果が出ませんでした。そこで、
・IT業界の現状はどうか
・相手の経営者はどのような課題を抱えているのか
・自社の強みをどう伝えれば受け入れてもらえるのか
といったように、アプローチ先の状況と自身のスキルを整理し、改善を重ねていきました。
このプロセスは、スポーツにおいて「相手に対して自分の強みをどう活かすか」「自分に足りないスキルは何か」を考えながら、PDCAを回し続ける流れと本質的には同じだと感じています。

——体育会時代のご経験が、今のビジネス現場で最も活きているのは何ですか?
目的意識を強く持ち、ゴールから逆算して行動する力です。
体育会出身者が社会で評価される理由は、単に体力があるからでも指示に従順だからでもありません。自分の現状を客観的に把握し、目標達成に必要なプロセスを設計し、それを実行し切る思考習慣が身についているからだと考えています。
この考え方は現在の営業活動にも直結しています。例えば経営者から「採用人数を増やしたい」という要望をいただいた際も、その背景にある課題を整理し、「なぜ採用が必要なのか」「採用の先にどのような状態を目指すのか」といった目的から捉え直して提案内容を組み立てています。
具体的には、採用の本来の目的は定着・活躍にあるため、まずは離職率を下げる仕組みづくりから着手すべきではないか?といったように、本質から逆算した提案につなげています。このように、目的から逆算して考える思考こそが、体育会で培った最も大きな強みです。
——最後に、何かに打ち込んでいる現役学生へメッセージをお願いします。
皆さんにお伝えしたいのは、
・チーム内の序列で自分の限界を決めつけないこと
・自分より詳しい人から学び、自ら情報を取りにいくこと
の2つです。
私自身、イップスで非常に苦しい時期がありましたし、スタメンになるまでの道のりも決して順風満帆ではありませんでした。それでも、自分の強みを見つけ、必要な努力を継続することで、必ず活路は開けると実感しています。皆さんも、今の立ち位置だけで自分の可能性を決めつけないでほしいと思います。
就職活動においては、かつての私のように自分だけで何とかなると考えず、就職エージェントなど、その領域に詳しい人の知見を積極的に活用してください。スポーツを通して培った「正しい努力を積み重ねる力」や「逆算して考える力」は、ビジネスの世界でも必ず通用します。その力を最大限に発揮するためにも、視野を広く持ち、主体的に情報を取りにいきながら、自分のキャリアと真剣に向き合ってみてください。

金子 知広(かねこ ちひろ)
ブライエッジ株式会社 チーフコンサルタント
1994年生まれ。東海大学出身。高校・大学の計7年間にわたりアメリカンフットボール部に所属し、大学時代はチームの1部リーグ昇格に貢献。新卒で食品業界へ入社後、未経験からブライエッジ株式会社へ転職。現在は法人向け新規開拓のリーダーとして、ヘッドハンティング、採用代行(RPO)や人材育成の仕組み化、人事評価制度の構築など、企業の組織課題を包括的に解決するコンサルティング業務に従事している。