体育会で培った「目的意識」は、社会でどう活きるのか——大阪大学男子ラクロス部OB 矢野俊太朗
大阪大学男子ラクロス部出身で、現在は日系大手コンサルティングファームで働きながら、同部のヘッドコーチを務めている矢野俊太朗さん。北海道札幌市で高校までを過ごし、大阪大学進学後、コロナ禍で思うように大学生活を送れないなか、「関西制覇」を掲げるラクロス部に惹かれて入部しました。2年時にはチームが2部へ降格し、自身も思うように上達できない苦しさを経験します。その後、3・4年時にはチームの立て直しに取り組み、副将として1部昇格に貢献しました。今回は、矢野俊太朗さんに、大学ラクロスを通じて身につけた目的意識と、それが現在の仕事やコーチとしての活動にどうつながっているのかを伺いました。
——これまでのご経歴と、現在のお仕事について教えてください
大阪大学に進学後、男子ラクロス部に入部しました。4年生のときには副将を務め、卒業後は日系大手の総合系コンサルティングファームでコンサルタントとして働いています。
大学は1年間休学したため、5年間在籍しました。ラクロス部では4年間選手として活動し、4年生で副将を務めました。選手を引退した後、大学5年目からコーチとしてチームに関わり始めました。
大学卒業後、現在は社会人としてコンサルタントの仕事に取り組んでいます。仕事では、特定の業界の企業を担当する部署に所属しています。総合コンサルティングファームには、人事や会計など、専門領域ごとに分かれた部署があります。一方で、私の部署は「どの専門領域を担当するか」ではなく、「どの業界の企業を担当するか」を軸にしています。そのため、一つの企業に対して、人事、会計、業務改善など、幅広いテーマで関わる機会があります。
ラクロス部では、社会人1年目にアシスタントコーチを務め、社会人2年目からヘッドコーチを務めています。普段は東京に住んでいますが、金曜の夜に大阪へ向かい、土日の練習に参加して、日曜の夜に東京へ戻る生活を続けています。

——大学でラクロス部に入った理由を教えてください
入学した当時はコロナ禍でした。1年生の前期は授業がすべてオンラインで、家にいる時間が長く、アルバイトなどにも取り組みにくい状況でした。その分、自分は大学生活をどう過ごしたいのかを考える時間がありました。
当時の私は、オンライン中心の生活が続いていたこともあり、大学生活に物足りなさを感じていました。そんな中、夏休みに新歓活動が再開され、「関西制覇」という、それまで聞いたことのない高い目標を掲げるチームに出会いました。自分も何かに本気で打ち込みたいと思っていたタイミングだったため、その目標に強く惹かれ、ラクロス部への入部を決めました。
——学生時代に、特に苦しかった経験は何でしたか
一番苦しかったのは、2年生のときにチームが2部へ降格したことです。
当時のチームには、掲げている目標と日々の行動の間に大きなギャップがありました。「阪大は強いはずだ」という根拠のない自信があり、関西制覇に向けた取り組みも十分ではなかったと思います。
努力を積み重ねれば届く可能性のある目標だったからこそ、本気で行動している人が少ないように感じていたことが、当時の私には苦しさの一つでした。その結果として2部へ降格し、チームとしても、自分自身としても厳しい時期を過ごしました。
私自身もなかなか上達できず、自分の成長を感じられませんでした。チームも結果が出ず、この先どうなるのだろうという不安がありました。
ただ、2年生のときの悔しさがあったからこそ、3年生と4年生では「チームを変えたい」という思いを持ち続けられました。後輩たちには同じ思いをしてほしくない。その気持ちが、チームを立て直す原動力になりました。

——そこから、チームをどのように立て直していったのでしょうか?
3年生のときに、大きな転機がありました。前年に関西学院大学で関西制覇を経験された方が、大阪大学のコーチとして加わったのです。
私はその年、新歓リーダーを務めながら、同期や一つ上の代の先輩方と一緒にチームづくりに関わっていました。その過程で、そのコーチから強いチームの考え方や、組織をつくるうえで大切なことを多く教わりました。
そこから、同期や一つ上の代の先輩方と一緒に、チームをつくり直していきました。まず意識したのは、すでに成果を出しているチームから学び続けることです。強いチームがどのように新歓や育成を設計しているのか、どのような基準で日々の活動に取り組んでいるのかを見て、自分たちのチームに必要なものを考えていきました。
当時のチームには単年のスローガンはありましたが、部として長く大切にする理念はありませんでした。そこで、新歓や育成の仕組みを見直すと同時に、中長期的に強い阪大をつくるため、部として何を大切にするのかを改めて言語化しました。
目の前の1年だけではなく、数年先まで見据えて強いチームをつくる。その視点を持ち、文化づくりに取り組み始めたことが大きかったと思います。
——副将として部活に専念するため、休学もされています。なぜその選択をしたのでしょうか?
一番の理由は、チームづくりに本気で向き合うためです。
4年生のとき、私は副将を務めていました。当時はチームを本気で変えようとしている時期でした。
自分のプレー、副将としての役割、就職活動、大学の勉強。そのすべてを同時に進めることは、並行することはできても、すべてが中途半端になると感じました。
どうせやるなら、それぞれに全力で向き合いたいと考え、1年間休学し、その期間は部活動に集中することを決めました。
結果として、4年生のときにチームは一部昇格を果たしました。昇格という結果だけでなく、自分で決めた目標にどこまで本気で向き合えるのかを考え続けた1年だったと思います。

——現在もヘッドコーチとして関わり続けている理由を教えてください。
最大の理由は、自分自身が「中長期的に強い阪大をつくる」という考えを掲げてきた当事者だからです。2部降格を経験したことで、目先の結果だけでなく、数年先を見据えてチームをつくることの大切さを実感しました。だからこそ、大阪大学男子ラクロス部が目標とする日本一を達成するまで、コーチとして部員たちと挑戦を続けたいと思っています。
東京に住みながら大阪へ通う生活は簡単ではありません。ほぼ毎週、金曜の夜に大阪へ向かい、土日の練習を見て、日曜の夜に東京へ戻っています。それでも続けたいと思えるのは、ラクロス部員と過ごす時間に大きな価値を感じているからです。
ラクロス部の学生たちは、自分で考え、自分の意思で行動しようとする姿勢を持っています。私が伝えたことをただ受け入れるのではなく、「自分にとってどういう意味があるのか」を考えたうえで行動に移してくれます。
試合に負けたときも言い訳するのではなく、結果と向き合おうとします。そうした姿勢を見るたびに、このチームにはまだ大きな可能性があると感じますし、コーチとして関わるやりがいにもつながっています。
——大学ラクロスには、どのような魅力がありますか?
大学ラクロスの魅力は、自分で目標を決め、その達成に向けて本気で取り組めることだと思います。
大阪大学のように、これまで勉強を中心に取り組んできた学生にとって、その価値は大きいと感じます。同じリーグの相手には高校まで本格的にスポーツを続けてきた選手も多く、練習環境にも差があります。負ける言い訳を探そうと思えば、いくらでも見つけられる環境です。
それでも、自分の可能性を信じて大学ラクロスに飛び込み、自分たちで決めた目標を追い続ける。その経験には大きな意味があります。親や周囲の期待を受けながら進路を選んできた学生にとって、自分の意思で決断し、その選択に責任を持ってやり切る時間になるからです。
自分の人生を自分で選ぶ。その感覚を持てることが、大学ラクロスを通じて得られる大きな価値だと感じています。

——体育会での経験は、現在の仕事にどのようにつながっていますか?
大きく2つの点でつながっていると感じています。
1つ目は、目的意識を持って行動することです。
ラクロスでは、同じ4年間を過ごしていても、どれだけ上達できるか、どれだけチームを強くできるかは、一つひとつの行動にどれだけ意味を持たせられるかによって変わります。私は、練習の1分1秒に対して「何のためにやるのか」を常に考えるよう意識していました。
仕事においても、それは同じだと感じています。任された業務に対して目的意識を持って取り組むかどうかで、得られる経験や成果は大きく変わります。
入社後の研修でも、この考え方を大切にしていました。私はどうしても配属されたい部署があったため、その部署に配属されるためには何が評価されるのかを考え、研修中の課題やグループワークにも一つひとつ目的を持って取り組みました。自ら目標を設定し、求められる成果から逆算して行動した結果、枠の限られた部署への配属につながりました。
2つ目は、大変なことから逃げずに向き合い続ける姿勢です。
コンサルタントの仕事は、ルーティンワークが少なく、自分の成果が目に見えやすい仕事です。そのため、毎回テストを受けているような感覚があります。
体育会での活動では、できることよりも、できないことに向き合う時間の方が長かったように思います。勝った試合よりも負けた試合の方が多く、成功したプレーよりもミスしたプレーの方が多かったです。
そうした経験を積み重ねてきたからこそ、仕事で難しい課題や失敗に直面しても、それを単なる失敗ではなく、次につながる経験として受け止めやすくなりました。

——今後のキャリアに悩む現役の体育会学生へ向けたメッセージをお願いします。
まずは、自分で立てた目標に全力で向き合ってほしいです。本気で取り組んだからこそ見える景色があると思っています。
就職活動や将来について考えると、不安を感じる学生は多いと思います。その気持ちはよく分かります。ただ、焦っていろいろなことに手を広げるよりも、まずは今取り組んでいることに本気で向き合うことが大切です。
体育会で得られるのは、多くの時間と熱量を注いだからこそ身につく経験や感覚です。「目的意識が大切だ」と知っていることと、実際に目的意識を持って行動し続けることは違います。そうした力は、本気で競技に向き合い、試行錯誤を重ねる中で身についていきます。自分では成長に気づきにくいかもしれませんが、目標に向き合い続けた時間は、確実に自分の中に残ります。
また、さまざまな立場の人と交流することも大切だと思います。普段から一緒にいる人とばかり話していると、どうしても同じような話題になりがちです。一方で、新しく出会った人と話すことで、「自分はこんなことを考えていたんだ」「以前よりこういうことを話せるようになっていたんだ」と、自分自身の成長に気づくことがあります。
それが将来にどうつながるかが今は見えなくても、まずは目の前の目標に本気で向き合ってみてください。その経験が、将来の選択肢を広げ、自分らしい道を選ぶ力につながると思います。
矢野俊太朗
大阪大学男子ラクロス部OB
北海道札幌市出身。大阪大学進学後、男子ラクロス部に入部し、4年時には副将を務める。2部降格を経験したチームの立て直しに取り組み、4年時には1部昇格を果たした。大学を卒業後、日系大手コンサルティングファームに入社。現在はコンサルタントとして働きながら、大阪大学男子ラクロス部のヘッドコーチを務めている。