海外クラブ副社長から再びJリーグへ。サッカー業界を歩み続けた理由とは——東京学芸大学蹴球部出身 藤原兼蔵
大学時代に過ごした体育会での時間は、その後の人生にどのような影響を与えるのでしょうか。東京学芸大学サッカー部でプレーし、学連の活動や副キャプテンとしてチーム運営にも関わった藤原兼蔵さんは、現在は、Jリーグクラブの横浜FCでマーケティング統括を務めています。大学卒業後は不動産業界で働きながら高校サッカーのコーチとして活動。その後30歳でサッカー業界への転身を決意し、イギリスのリバプール大学大学院でサッカー産業MBAを取得しました。帰国後はFC東京や横浜FCでクラブ運営に携わり、さらにベトナムにてサイゴンFCの副社長を務めるなど、国内外のスポーツビジネスの最前線を経験してきました。本記事では、藤原さんのキャリアを振り返りながら、大学時代の体育会経験がどのように現在の仕事や価値観に影響を与えているのかを伺いました。
——現在はどのようなお仕事をされているのでしょうか?
現在はJリーグクラブである横浜FCで、マーケティング統括の役割を担っています。主な仕事は、クラブのファンを増やし、クラブの存在によって幸せを感じる人を増やすことです。具体的には、ファンクラブ運営や広報、グッズ、イベントなど、クラブの事業系の領域を横断的にマネジメントしています。サッカークラブは、単なるスポーツチームではなく、地域に根差したコミュニティの中心でもあります。そのため、チームを応援する人が増えれば増えるほど地域に活気が生まれます。クラブが存在することで街が元気になり、そこに関わる人の人生が少し豊かになる。そうした環境をつくることが、今の仕事の大きなテーマだと考えています。

——これまでのキャリアについて教えてください。
大学卒業後は、不動産仲介の会社に就職しました。不動産業界に入りましたが、学生時代からサッカーとの関わりは続いており、社会人になってからは、母校である都立駒場高校のサッカー部でボランティアコーチとして約8年半活動しました。仕事をしながら指導を続ける中で、次第に「サッカーに関わる仕事がしたい」という思いが強くなり、30歳のときに大きな決断をしました。それが、イギリスのリバプール大学大学院への留学でした。「サッカー産業MBA」というプログラムに進学し、スポーツマーケティングやスポーツビジネスの法律などを学びました。帰国後はFC東京に入社し、ファンクラブや事業部門でクラブビジネスに携わりました。その後、横浜FCに移り、事業部の統括部長としてファン施策や広報、グッズなど事業領域全般を統括しました。その後FC東京に戻り海外事業などを担当した後、ベトナムのサイゴンFCからのオファーを受け、副社長としてクラブ経営に携わることになります。海外での経験を経て帰国後は、広告代理店でスポーツ関連の仕事にも携わり、現在は再び横浜FCに戻り、マーケティング統括としてクラブ経営に関わっています。

——学生時代のサッカー部はどのような環境でしたか?
東京学芸大学のサッカー部は、当時関東大学リーグ2部に所属していました。特徴的だったのは、非常に自主性を重んじる文化だったことです。監督の先生は大学の授業などで忙しく、平日の練習には参加できないことが多かったです。そのため、練習メニューを考えるのも、チームをまとめるのも基本的には学生自身です。特に4年生が中心となってチームを運営し、戦術の勉強をしながら練習を組み立てていました。そうした環境の中で、自然と「チームをどう運営するか」という視点を学ぶことになりました。
私は2年生のときに学連の仕事を経験し、リーグ運営など裏方の仕事にも関わりました。また4年生では副キャプテンも務め、チームをどう動かすか、どのように組織を機能させるかを考える機会が多かったと思います。

——体育会での経験は、現在の仕事にどのように活きていますか?
まず一つ目は「自分で動く力」です。大学時代は、監督が常に指示を出してくれる環境ではありませんでした。自分たちで考え、練習を作り、チームを動かす必要がありました。そうした経験が、社会に出てからも自分で行動を起こす姿勢につながっています。
二つ目は、「人とのつながりの大切さ」です。これまでのキャリアを振り返ると、履歴書を送って就職したケースよりも、人の紹介で仕事につながったケースが多くあります。FC東京への就職も、横浜FCへの転職も、人との縁がきっかけでした。スポーツ業界は特に、人との信頼関係が大きな意味を持つ世界だと感じています。
三つ目は「誠実さ」です。特にベトナムでの経験を通じて感じたのは、日本人の誠実さや真面目さは世界でも強みになるということでした。国籍や文化が違う人たちと働く中で、正直であること、約束を守ること、愚直に仕事に向き合う姿勢が信用につながると実感しました。このような価値観の原点は、大学時代の体育会の環境にあるのではないかと思っています。

——海外での経験は、どのような学びがありましたか?
イギリスでの留学も、ベトナムでの仕事も、日本とはまったく違う文化に触れる経験でした。留学中は、グループディスカッションで意見を言わないことが「ずるい」と指摘されたことがあります。日本では控えめな姿勢が評価されることもありますが、海外では「自分の意見を言わないこと」は責任を果たしていないと受け取られることがあります。そうした経験を通じて、異文化の中では自分の考えをしっかり伝えることの重要性を学びました。
またベトナムでは、クラブ経営の仕組みが日本とは大きく異なります。多くのクラブがオーナー企業の資金に依存していて、オーナーの判断でチーム名やチームカラーが変わることもあります。その一方で、ベトナムではサッカーが国民的スポーツであるため、代表戦の盛り上がりやクラブへの注目度は非常に大きく、日本とは違うスポーツ文化を体感しました。

——現役の学生へメッセージをお願いします。
まずは、「正直に、真面目に、一生懸命やること」です。当たり前のようですが、この姿勢は社会に出てからも必ず評価されます。特にスポーツの世界では、どんなに能力があっても信頼されなければ仕事は続きません。
もう一つ大切なのは、「自分から動くこと」です。私自身、30歳で留学を決めたことや、海外のクラブからのオファーをすぐに受けたことなど、自分から行動したことで人生が大きく動きました。待っているだけでは、何も起きません。自分がやりたいと思ったことがあれば、ぜひ一歩踏み出してみてください。その行動が、思ってもみないチャンスにつながることもあります。
大学時代のサッカー部で培った自主性や誠実さ、人とのつながりを大切にする姿勢。それらは藤原さんのキャリアの随所で大きな意味を持ち続けています。不動産業界からサッカー業界への転身、海外留学、Jリーグクラブの運営、そして海外クラブの副社長。多くの挑戦を重ねながら歩んできたキャリアの根底には、「自分で動く」というシンプルかつ挑戦的な姿勢がありました。体育会で過ごす時間は、競技の結果だけで価値が決まるものではありません。仲間とともに考え、行動し続ける経験こそが、その後の人生を支える大きな財産になっていくのかもしれません。
藤原兼蔵
東京学芸大学卒業。大学では蹴球部に所属し、学連および副キャプテンを経験。卒業後、不動産業界で働きながら高校サッカー部のボランティアコーチとして活動。その後30歳でイギリス・リバプール大学大学院のサッカー産業MBAに進学。帰国後はFC東京、横浜FCでクラブビジネスに携わり、ベトナム・サイゴンFCでは副社長を務めた。広告代理店でスポーツビジネスに関わった後、現在は横浜FCでマーケティング統括を担当している。