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「預ける罪悪感」を「子どもへのギフト」に変える。体験型イベント保育が目指す、子育ての新常識——株式会社エムバディジャパン

「私は、ずっと”変な子”だったんです」

株式会社エムバディジャパンのケイリーさんは、そう語ります。その言葉に自己否定の響きはない。むしろ、自分の違和感と向き合い続けた人だけが持つ確信がにじんでいました。

高校2年生で家を出ることになり、街で人に声をかけ、自ら仕事を生み出しながら資金を貯めて単身イギリスへ。言葉の通じない土地で教授に何度も直談判を重ねた原動力は、「なぜ環境によって愛や教育に格差が生まれるのか」という切実な問いでした。

現在は、東京都のピッチイベントでの優勝を機に、美術館やコンサート会場での「体験型イベント保育」を加速させています。単なる預かりから、プロの芸術に触れる教育機会へ。親の罪悪感を「子どもへのギフト」へと変えるパラダイムシフトの裏側にある、泥臭い試行錯誤の物語を紐解きます。

 

 

——貴社の事業内容とミッションについて教えてください。

 

私たちは、「子育ては家庭だけが担うもの」という前提そのものを変え、社会全体で子どもを育てる仕組みを実装することを目指しています。

現在のメイン事業は、美術館やコンサート、企業のイベントなどで展開する「イベント保育」です。従来の託児が「安全に預かること」に重きを置いてきたのに対し、私たちはそこに「教育」と「体験価値」を掛け合わせています。

イベントの世界観に合わせて空間をゼロから設計し、バイリンガルスタッフやプロのアーティストが子どもたちの感性を引き出すワークショップを行います。

さらに現在は「バディプログラム」という新たなプラットフォームの開発にも取り組んでいます。海外の若者が日本の家庭に滞在し、家事や育児を支援する代わりに住居と食事を提供する仕組みです。

私自身、シングルマザーとして、時間的にも心理的にも余裕を持てずに苦しんだ経験があります。日本には「人に頼ること」への心理的ハードルが強く存在します。その壁を、行政や大企業との連携による信頼の担保によって取り払い、誰もが孤立せずに子どもを育てられる社会をつくりたいと思っています。

 

 

——なぜオックスフォードを目指したのですか?

 

社会から「変わっている」と見られていた自分を、学問の視点で理解したかったからです。

高校2年生の頃、学校に適応できなかった私は家庭でも居場所を失い、突然帰る場所をなくしました。

しかし、不思議と絶望するよりも先に湧き上がったのは、「なぜ家庭環境によって愛や教育にこれほどの差が出るのか」という好奇心でした。

その答えを探すために、ベビーシッターなどの仕事を掛け持ちして資金を貯め、18歳で渡英しました。目的地は幼児教育研究の世界的な拠点であるオックスフォード大学です。英語も話せず、ツテも一切ありません。それでも「ここに答えがある」という直感だけを頼りに動き続けました。

 

——現地での研究で得られた気づきは何ですか?

 

最大の発見は、個性の評価は環境によって180度変わるということでした。日本では「落ち着きがない」「変人」と評価されていた私の特性が、海外では創造性として歓迎されたのです。
環境が変わるだけで、自己肯定感も学習速度も劇的に変わる。その事実は、私自身を救いました。同時に、この視点を日本に持ち帰らなければならないと感じました。
子どもの個性を矯正するのではなく、個性が活きる環境を設計すること。現在の体験型保育は、この思想から生まれています。

 

——親の「預ける罪悪感」をどう解消したのですか?

 

「託児」を「教育機会」へと再定義することで、親御さんが抱える罪悪感を和らげてきました。ヒアリングでは、多くの親が「自分が楽しむために子どもを預けること」に強い罪悪感を抱えています。しかし、同時に9割以上が「習い事なら行かせたい」と答えました。

そこで私たちは、預けている時間そのものを「質の高い学びの時間」へと転換しました。

私たちが手掛ける現場では、親がイベントを楽しんでいる横で、子どももまた本物のアートや音楽に没頭しています。預ける行為が「我慢」ではなく「子どもへのギフト」に変わった時、親御さんの表情も大きく変わります。

親が罪悪感から解放されて心から楽しむことができれば、その余裕がそのまま子どもへの接し方にも表れてきます。親の幸せと子どもの成長、その両立を可能にする仕組みこそが、私たちが提供している価値の本質なのです。

 

 

——「本物の体験」にこだわる理由を教えてください

 

子どもは、体験の質を驚くほど敏感に感じ取ります。

私たちは、一般的な保育現場で見られるような簡易的な制作にとどまらず、体験そのものの質にこだわっています。例えば日本画の展覧会であれば、現役のアーティストの指導のもと、本物の墨や和紙を使い、プロの視点を体験させます。コンサート会場であれば、ヴァイオリン体験やプロの演奏家によるリトミックを実施します。

生後1ヶ月から12歳まで、発達段階に応じてアプローチは変えますが、扱う素材や体験の質には妥協しません。その結果、最初は戸惑っていた子も、2時間後には驚くほどの集中力を見せるのです。お迎えの瞬間に見せる「やり遂げた顔」が、親御さんへの何よりの安心材料になっているのです。

 

——挫折を経て、なぜ若者を育てる道を選んだのですか?

 

経営者としての道のりは、順風満帆ではありませんでした。1社目を売却した後、信頼していた共同経営者との関係が崩れ、経営も現場も一人で抱えなければならない時期がありました。契約や役割の線引きを曖昧にしたまま、信頼だけで関係を築いていた甘さが、自分自身を追い詰める結果を招いたのです。
その経験から学んだのは、「完成された人材」を求めるより、共に成長する組織をつくる方が自分に合っているということでした。
スタートアップには正解がありません。だからこそ現場の葛藤や意思決定を間近で経験すること自体が教育になる。
私が経験してきた失敗や痛みが若者たちにとって同じ遠回りをしないためのヒントになればと思っています。何も知らないからこそ余計な先入観がなく、向き合える強さもある。そうした若者と一緒に成長していけたら嬉しいです。

 

 

——インターンにストイックさを求めるのはなぜですか?

 

保育は、感情労働になりやすい領域です。だからこそ、論理的に状況を整理できる視点が必要になります。

そうした人がいることで、組織のバランスが保たれ、事業をスピード感を持って前に進めることができると考えています。

また、私自身「思いついたら即行動する」タイプです。そのスピードに伴走できるのは、自分を律し続けられる人。競技スポーツなどで限界に挑んだ経験がある学生は特に向いていると思います。

最初は現場のサポートからスタートしますが、最終的には戦略立案や組織管理を担う「経営の右腕」のような存在へ育ってほしいと考えています。「もっと自分の限界を超えたい」「やりがいのある環境で本気で働きたい」という学生にとって、刺激的な経験ができる場所になるはずです。

 

——最後に、学生へのメッセージをお願いします。

 

「やりたい」と思った瞬間に動いてください。

私は、会いたい人には即座に連絡を取り、「あなたを頼りたい」と伝えることで道を切り拓いてきました。100人に断られても、たった一人が「面白い」と言ってくれれば、そこから何かが動き始めます。

自分の考えを1人で抱えていても答えは出ません。外に出て、いろんな価値観を持つ人と話し、自分の考えを言葉にし続けてください。優秀な人との対話は、「自分が何者か」を少しずつ明確にしてくれます。エムバディジャパンは、子育てという社会の根幹を変える挑戦をしている会社です。地道で大変なことも正直たくさんあります。でも、本気でぶつかれば必ず成長できる。私はそう信じています。一緒に、この挑戦を楽しみましょう。

 

 

ケイリー(亀山 萌)
株式会社エムバディジャパン 代表取締役

17歳で独立。単身イギリスに渡り幼児教育を学ぶ。ヨーロッパ各国の保育現場の経験を経て帰国後、教育系スタートアップの起業と事業売却を経て、株式会社エムバディジャパンを設立。現在は、東京都のピッチイベントで優勝した「体験型イベント保育事業」や、海外の若者と日本の家庭を繋ぐ「バディプログラム」の開発に従事。「子育てのパラダイムシフト」をミッションに掲げ、日本の育児環境の刷新に取り組んでいる。