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やりたいことが見つからなかった僕が、ブドウ農家になるまで——なかむら果実園

長野県でぶどう農園を営む、なかむら果実園。

中村さんは新卒で入社したレバレジーズ株式会社(IT・人材領域を中心に複数の事業を展開する成長企業)で新規事業やマーケティングに携わってきました。東京でのキャリアを歩み続ける選択もあったなかで最終的に選んだのは、実家の農園を継ぐという道でした。

背景にあったのは、祖父母の高齢化による後継者不在という現実と、「このまま終わらせたくない」という強い想い。市場出荷から直販への転換や、鮮度に徹底的にこだわるオペレーションなど、農業を“事業”として捉え直す取り組みを一つずつ積み重ねてきました。

毎日畑に立ち続けながら試行錯誤を重ねる中で見えてきたのは、農業の奥深さと、行動することでしか変えられない現実です。

本記事では、中村さんの原体験や覚悟、そして学生に伝えたい「動くことの大切さ」を紐解いていきます。

 

 

 

——なかむら果実園は、どんな事業をしているのですか?

 

なかむら果実園は、長野県でぶどうの栽培・販売を行う農園です。

主力商品は、シャインマスカット・ナガノパープル・クイーンルージュ®の三品種を指す「ぶどう三姉妹®」。いずれも長野県が誇る品種で、それぞれ異なる甘みや食感を持ちながら、互いの魅力を引き立て合う存在です。

さらに、収穫したぶどうの中から厳選した「プレミアムセレクション」は、贈答用として高い評価を得ています。見た目、糖度、食感、そのすべてに妥協せず、一房ずつ丁寧に仕上げています。

単に作って売る農業ではなく、「どんな価値を、誰に届けるのか」までを設計している点が、なかむら果実園の特徴です。

 

 

——なぜ市場出荷から直販・D2Cへ切り替えたのですか?

 

中村さんが農園に戻った当初、ぶどうの多くは市場出荷が中心でした。しかし市場では価格を自分で決めることができず、品質へのこだわりが評価に反映されにくい現実があります。

「規模の小さな農家が生き残るには、ちゃんと価値を伝えるしかない。

実家の農業をこのまま終わらせたくないという想いから、中村さんは直販・D2Cという選択をしました。

この判断の背景には、レバレジーズ時代に培った思考法があります。新規事業や組織改善に携わる中で身につけたのは、「まずやってみて、成果が出るまで改善する」という姿勢。

課題を見つけ、仮説を立てて試して、振り返る。そのプロセスは農業でも変わりません。

売り方を変えたことで、お客様の声が直接届くようになり、次の改善につながっていきました。

農業を“作業”ではなく“ビジネス”として捉え直したことが、事業転換の大きなきっかけとなっています。

 

——「鮮度こそ価値」という言葉に込めた想いとはなんですか?

 

なかむら果実園が掲げる理念は、「果実の恵みで、人生を豊かに。」

その中核にあるのが、「鮮度こそ価値」という考え方です。

中村さん自身、収穫直後のぶどうと時間が経ったぶどうを食べ比べ、その違いをはっきりと感じてきました。

美味しさの感じ方は人それぞれでも、鮮度の良し悪しは誰にでもわかる。だからこそ、収穫したその日に梱包・発送するオペレーションを確立しています。

動線の見直しや資材の改善など、取り組みはどれも地味なものばかり。それでも、この積み重ねが「鮮度」という価値を守り続けています。

 

——江戸時代から続く農園で、変えないもの・変えるものは何ですか?

 

なかむら果実園は、250年以上続く歴史ある農園です。

中村さんが何より大切にしているのは、「品質の悪いものは絶対に出さない」という姿勢。たとえ売上が下がったとしても、品質だけは決して落とさない。この価値観は代々受け継がれてきました。

 

 

一方で、変えるべきところは積極的に変えていきます。たとえば栽培方法、オペレーション、販売手法、そしてお客様との向き合い方です。

直販を始めたことで、お客様の声が直接届くようになり、「もっとこうしたら喜ばれるのではないか」という視点で改善を重ねています。

守る軸と、変わり続ける勇気。その両立こそが、長く続く農園を支えています。

 

——なぜ東京でのキャリアを手放し、農業を選んだのですか?

 

中村さんは、レバレジーズでマーケティングや営業組織の改善、新規施策の立ち上げなどを経験しました。裁量の大きな環境で力をつけながらも、常に頭の片隅には「実家の農業をどうするか」という問いがありました。

決断の大きなきっかけとなったのが、コロナ禍です。

日々のニュースで流れる死者数を見て、「明日死ぬかもしれない」と強く意識したといいます。後悔しない選択をしたい。その想いが、農業に踏み切るための背中を押しました。

当初から明確な成功イメージがあったわけではありません。

ブドウをどう売り、どう事業として成り立たせていくのか。模索しながら、一つずつ試していった結果、少しずつ手応えを掴んでいきました。

不安を抱えたままでも、まず一歩を踏み出した。その積み重ねが、今のなかむら果実園の事業につながっています。

 

 

——農業の面白さと、想像以上に難しかったことは何ですか?

 

農業の面白さは「手をかけた分だけ、結果が正直に返ってくること」です。一方で難しさは、その結果を80点、100点に引き上げることです。

「60点のぶどうは作れる。でも、80点や100点は本当に難しい。」

毎日畑に足を運び、草を取り、枝や葉の状態を確認する。こうした地味な作業の積み重ねが、品質を大きく左右します。

そして何より、自分の手で育てたぶどうに対して「感動した」「美味しかった」とお客様から直接声をかけてもらえる瞬間が、最大のやりがいになっています。

 

——学生ボランティアには、どんな経験をしてほしいですか?

 

なかむら果実園では、学生ボランティアの受け入れを積極的に行っています。

内容はシンプルで、収穫や販売のお手伝いなど、農業の現場を実際に体験してもらうことが中心です。

中村さんが特に来てほしいと考えているのは、「やりたいことがはっきり決まっている人」はもちろんのこと、「正直、まだよく分からない」という人。

ぶどうが好き、自然の中で働いてみたい、ちょっと都会を離れてみたい——そんな軽いきっかけでも十分だといいます。

畑で体を動かし、スマホやPCから少し距離を置く時間は、思っている以上に頭をすっきりさせてくれます。

地方で働くことや一次産業に触れる経験は、気づけば自分の考え方や将来観を見つめ直すきっかけになっているかもしれません。

 

 

——今の学生に、いちばん伝えたいことは何ですか?

 

中村さんが学生に伝えたいのは、とにかく「早めに動いてみること」です。

今は、情報そのものに大きな差がつく時代ではありません。その中で違いが生まれるのは、実際に行動したかどうかだと感じています。

失敗しても大丈夫。むしろ、やってみないと分からないことの方が多い。

20代前半は、少し無謀なくらいがちょうどいい時期です。

気になる場所に足を運び、話を聞き、自分の目で見て感じてみる。

そうした一次情報の積み重ねが、振り返ったときに「やっておいてよかった」と思える選択につながっていきます。

「やりたいことが分からないなら、まずは動いてみてほしい。」

その言葉には、迷いながら選択を重ねてきた中村さん自身の経験が込められています。

 

中村拓哉
なかむら果実園 10代目

1995年生まれ。長野県出身。

なかむら果実園の長男として育ち、新卒でレバレジーズ株式会社に入社新規事業や主力事業のマーケティング、営業組織の改善などに携わる。祖父母の高齢化をきっかけに、実家農園の存続を考え就農を決意。故郷へ戻り、2年間の修行期間を経て、250年以上続くなかむら果実園の10代目を継承。

現在は、ぶどう三姉妹®︎を中心とした自社ブランド化と直販・D2Cに注力し、伝統を守りながら持続可能な農業に取り組んでいる。