“主体性”と“チームワーク”が、限られた時間を価値ある成長に変える——長崎大学硬式野球部
長崎大学硬式野球部は、“チームワーク”と“自主性”を大切にし、自分たちで考えて行動する姿勢を軸にして、日々練習に取り組んでいます。練習メニューの立案からチーム運営、さらには企業と連携した取り組みまで、“活動の中心に常に学生がいる”ことが大きな特徴です。
限られた練習時間でもリーグ戦で上位に食い込めている理由は、学年を越えて支え合う強いチームワークと、一人ひとりが課題を“自分ごと”として捉えて改善に向き合う高い自主性にあります。
この“自主性”を全員が意識できるようにするために、工夫していることやこれからの目指すビジョンはどのようなものなのでしょうか?
今回は主将の後藤駿太さんにお話を伺い、部の特徴や学生主体で始まったイノベーション活動の魅力、主将としてチームを動かす大変さややりがいについての気づきや思いをお伝えしていきます。

——部の概要やメンバー構成について教えてください。
私たち長崎大学硬式野球部は、大学内のグラウンドを拠点に活動しています。平日は夕方16〜19時、週末は試合か練習。週4日という限られた時間だからこそ、“一つひとつを濃い練習にする”意識を全員が持っています。
メンバーは1年生10名、2年生9名、3年生2名の合計21名が所属しており、多くが高校まで硬式野球を経験したメンバーです。文理比率は理系7割・文系3割と幅広く、工学部の学生が比較的多いことも特徴です。上下関係が厳しすぎない雰囲気づくりを大切にしており、各自の自主性を尊重しながら、学業・アルバイトと両立しやすい環境でチーム運営を行っています。
——現在所属しているリーグや、ライバル校について教えてください。
九州地区北部リーグの「2部リーグ」に所属しています。2部で優勝すると1部リーグへ昇格できる仕組みで、春(3〜4月)・秋(9〜10月)のリーグ戦を通して入れ替え戦が行われます。
2025年はチーム力が安定し、秋リーグでは2位に入るなど上位争いを続けています。ライバル校は佐賀大学や大分大学。実力が拮抗しており、毎試合が成長の機会になります。チームの今後の目標は、1部リーグ昇格とリーグ戦での勝利です。目標を実現するために長崎の高校や佐賀の社会人チームと練習試合をすることや、大会にて強豪校と対戦することは大きな刺激と成長の機会になっています。
——“チームワーク”と“自主性”を大切にしているとのことですが、その価値観が体現された具体的なエピソードはありますか?
長崎大学硬式野球部の強みは、学年を越えた“距離の近さ”と、自分の意見を遠慮なく言える“自主性”があることです。

たとえば相手の攻撃が続く場面では、下級生が先輩に「今の配球どうでしたか?」「守備位置、ここで変えましょう」と声を掛け合います。全員が立場関係なく話し合える、そしてそのアドバイスを受けて成長できる環境づくりができるのは、普段から学年を越えた“チームワーク”がある証拠です。
また部の中で“自主性”が特に表れていると感じるのは、練習内容や改善点を部員全員で考えて決める文化がある点です。私たちの部には指導者がいません。だからこそ自分たちで課題を見つけ、練習方法を組み立てる必要があります。新チームになった時やテスト明けなどの節目ごとにミーティングを実施し、弱点を洗い出し、「いま何を優先すべきか」を全員で言語化する時間を必ずつくっています。
——練習環境が限られる中で、時間の有効活用はどう工夫していますか?
週4日という限られた環境だからこそ、大切にしているのは練習前の“準備”と“話し合い”です。たとえば練習メニューはその日の目的から逆算して、全員で「何を優先すべきか」を共有した上で組み立てています。“守備に集中する日”“打撃に振り切る日”など、目的に応じてメニューを絞り込み、無駄を極限まで省くやり方が習慣化しています。
——部の独自の活動である“イノベーション活動”について教えてください。
私たちは、学生主体で立ち上げた「イノベーションチーム」という団体で、企業や地域と連携した活動をしています。これは“野球部への協賛”ではなく、“学生が運営するイノベーションチームへの協賛”という仕組みで、現在は約20社の企業が支援してくださっています。

イノベーションチームは「営業」「企画」「総務」「広報」の4つの部門に分かれており、1年生全員がいずれかに所属します。主な活動内容は、企業懇談会の企画やポスター制作、SNS発信やOB戦や野球教室の企画などです。学生自身が社会と接点を持ち、責任を持って運営することで、「自分たちの部を自分たちで支える」自主性が育つ貴重な場となっています。
——スポンサー企業との活動で面白かったことや大変だったことはありますか?
スポンサー企業との活動で特に印象に残っているのは、「学生では経験できない場」に多く関われることです。たとえば過去に参加させていただいた企業イベントでは、子ども向けの企画で地域の方々と交流したり、応援に来てくださる企業の方と直接つながれたりと、野球部の枠を超えた学びがあります。
一方で大変なのは、スポンサー獲得や継続のための“営業活動”です。私自身が企業を訪問する役割も担っており、契約が関わる場面では、学生であっても“ビジネスとして向き合う姿勢”が求められ、責任の重さを痛感します。
——主将になって“目標の捉え方”に変化はありますか?
「目標」が“与えられるもの”ではなく“自分たちで作るもの”だと捉えるようになりました。高校の頃は甲子園という明確な目標があり、日々練習を重ねてきましたが、大学野球には絶対的な指標はなく、指導者もいないからこそ、自分たちで何に取り組むべきかを考える必要があります。技量向上、リーグ戦の勝利、チームの土台づくりなど、“目標を複数持つ”必要があることに気づけたのは、大きな転換点でした。
一方で、目標が複数あるからこそ、メンバー全員が主体的に動かないと前に進めないという課題もあります。チーム全体で話し合える環境を整え、「今日は何を強化する日か」を決め、行動に落とし込む姿勢こそが、主将としての成長につながっていると感じています。
——最後に、応援してくださる皆様へのメッセージをお願いします。
いつも応援し、支えてくださっている皆様のおかげで、私たちは日々の活動を続けることができています。本当にありがとうございます。これからも皆様に応援していただける存在であり続けられるよう、チーム一丸となって取り組んでいきます。
今後の目標は「1部リーグ昇格」です。立てた目標を必ず達成できるよう、これからも精一杯頑張っていきますので、今後とも変わらぬご声援をよろしくお願いいたします。

“学生主体”という言葉の奥にある覚悟と行動力は、彼らの強さの表れです。限られた環境だからこそ、生まれる工夫や学びがあります。野球の実力はもちろん、チームづくりやスポンサー企業との関係づくりの面でも大きく成長している長崎大学硬式野球部。彼らが部活で培う経験は、社会に出てからも「主体性」として成果につなぐ力となるでしょう。
執筆:青木千奈(株式会社Koti)