勝負は練習で決まる。“準備10割”の理念がチームを強化し、人を育てる——九州大学全学男子バスケットボール部

九州大学全学男子バスケットボール部は「準備10割」というスローガンを掲げ、スコアカードを用いた目標管理や3対3の分解練習など、“基礎の積み上げ”に重きを置いて練習に励んでいます。
彼らが考える“質の高い練習”とは、そしてその先に目指すゴールは何なのでしょうか。
今回は、主将の中田雄万さんにお話を伺い、日々の練習で意識していることや価値観、他の部にない強みをお伝えしていきます。

──活動内容や部員構成について教えてください。
九州大学全学男子バスケットボール部は、伊都キャンパスにある総合体育館や小体育館を拠点に活動しています。練習は基本的に水・金・土曜日の週3回で、平日は18時〜21時半、土曜日は13時〜17時で実施。土日は大会に参加することもあり、長期休暇中は週4回に増えることがあります。
メンバー構成は1年生6名、2年生14名、3年生10名、4年生6名の合計36名で、文理比率は「文系:理系=3:7」です。(取材当時)
年間を通して、福岡県リーグや七大戦、九州リーグなどさまざまな大会に出場しており、3月には県外遠征も実施しています。
——練習で意識していることを教えてください。
私たちの部には指導者がいません。学生だけで運営している組織だからこそ、円滑な運営を行うためにコミュニケーションを大切にすることで、個々人が課題や目的意識を持って部活動に取り組めています。
部の特徴は、「バランススコアカード」を使った目標管理です。「バランススコアカード」は、チームとして何に取り組むのか、そしてその練習がどの目標につながっているのかを全員が同じ認識で持てるようにするための“目標管理表”のようなものです。普段の取り組みがどのように結果に結びつくのかを意識させることで、全員が同じ方向を向いてバスケットボールに没頭できる環境をつくっています。
また、指導者がいないからこそ絆を深めることが大切で、チーム内の風通しをよくすることも意識しています。メンバーの間に不満や疑問が溜まらないように「思ってることは主張してほしい」と伝えつつ、Googleフォームなどのツールを使って個人の意見を掘り起こすなど工夫しています。
——大切にしている価値観やキーワードはありますか?
私たちは『準備10割』というスローガンを掲げています。
試合で最大限の力を発揮するために、メンバー全員が事前準備を整え、共有することを何より大切にしています。
バランススコアカードは、その“共通認識づくり”の基盤になっており、練習の質を上げるための重要なツールになっています。

また、チームとして勝ちにこだわるのは当然ですが、その過程で得られるものも大切にしています。
個々人が自分の課題と向き合う中で、技術的な成長だけでなく精神的にも成長すること、組織の一員としての役割を果たすことなどを通じて“仲間との絆を深める”ことも部活でしか得られない経験です。
——チームメンバーとは、普段の生活でも交流はありますか?
はい、練習以外の時間でもメンバー同士の交流は多いです。
普段の練習は本気で取り組む分、休憩時間や練習後には一気に雰囲気がゆるみ、ふざけ合うこともあります。先輩後輩問わずプライベートでも一緒に食事をしたり外出したりする機会もあります。学年を越えて仲が良いことも、チームの特徴のひとつです。
「練習では本気、オフではリラックス」というメリハリがあるチームだからこそ、日常生活でも自然とコミュニケーションが生まれています。
——バスケを通じて成長したと感じることはありますか?
特に実感しているのは、課題に向き合う力が格段に上がったことです。
高校の頃は、プレーの課題をそこまで深く掘り下げる経験がありませんでした。しかし、九州大学全学男子バスケットボール部では「なぜうまくいかないのか」「どの動きを改善すべきなのか」を徹底的に考える文化があり、一つひとつのプレーに対する分析や課題の特定を細かく積み上げていく姿勢が身につきました。
——具体的な練習方法で効果を感じたものはありますか?

課題を分解したことで、チーム全員の解像度を上げることができたと感じているのが、3対3の“分解練習”です。
通常行っている5対5の練習では、プレイヤーの動きが複雑に絡み合うため、「なぜうまくいかないのか」「どこに課題があるのか」が分かりにくいという特徴があります。
そこで、プレイヤー数を3対3に分解して、「この場面ではこう動く」というパターンを複数つくり、チームの“共通認識”を固めるところから始めました。
その上で、それぞれのパターンを5対5へ応用していくと、チーム全体が同じイメージでプレーできるようになり、「つくりたい動きがつくれない」という悩みが大きく改善されました。
結果として、チームとしての判断スピードや連携の精度が大きく向上し、チーム全体の底上げにつながった実感があります。
——今後のビジョンや目標について教えてください。

来年度に向けて、チームとして掲げている大きな目標は、以下の3つです。
・福岡県1部リーグで2勝
・七大戦の全勝優勝
・九州リーグ3部優勝と2部昇格
2025年度は、福岡県リーグ2部優勝、1部昇格を果たしましたが、七大戦5位、九州リーグ2部5位で3部降格という悔しい結果でした。
しかし、七大戦では他大学と実力差が大きく開いているわけではなく、どの大学も毎年力が変動する“横並び”の戦いだと感じています。だからこそ、しっかり準備を積み重ねれば十分に勝ち切れると信じていますし、「やるしかない」という強い気持ちで挑んでいます。
また、福岡県リーグでは2024年に2部に落ちた悔しさがある分、上級生を中心に「もう一度1部に返り咲く」という強い想いでここまで取り組んできました。2025年は2部で優勝し、再び1部に昇格できたことは大きな糧になっています。
今後も『準備10割』を掲げ、着実に力を積み上げていくこと、バランススコアカードを軸に「なぜこの練習をするのか」「何を達成したいのか」を全員が理解した状態で取り組むことで、リーグ戦や七大戦でも必ず目標を達成できると信じています。

——日々応援してくださる方々にメッセージをお願いします。
いつも応援していただき、本当にありがとうございます。
これまで支えてくださった皆さまのおかげで、私たちは日々の練習に全力で向き合うことができています。
チームとして掲げている「準備10割」を胸に、これからも一つひとつの練習や試合にしっかり向き合い、さらに成長した姿をお見せできるよう努力していきます。これからも、高みを目指して日々精進して参りますので、応援のほどよろしくお願いいたします。
目標に向かって考え、準備し、行動し続ける──この積み重ねは、彼らが社会という次のステージに進んだとき、確かな力になるはずです。根底にある「もっと強くなりたい」「仲間と勝ちたい」という純粋な想いこそが彼らの強みです。部活で培った思考力と行動力が、この先どのように花開いていくのか、その成長が楽しみです。
執筆:青木千奈(株式会社Koti)