ヨットの速さより、人としての強さを。“人間形成”を貫く——同志社大学ヨット部

同志社大学ヨット部は1933年に設立し、まもなく100周年を迎える長い歴史をもつ部です。
メンバーの半数以上が初心者からヨットを始めたにもかかわらず、インカレ優勝を目指して日々活動に取り組んでいます。技術的な強さだけでなく、『人間形成』を重視する彼らは、部活動を通して何を学び、どんな価値を次世代へつないでいるのでしょうか。
今回は、470チームのリーダーを務める出口愛海さんにお話を伺い、同志社大学体育会ヨット部の概要や大切にしている価値観、これからの展望についてお伝えしていきます。
——部の活動場所や、主な活動時間を教えてください。

同志社大学体育会ヨット部は、滋賀県大津市の琵琶湖で活動しています。基本的な活動日は金・土・日曜日の週3回です。夏休みなど授業期間外は、5日間の泊まり込み合宿と2日間のオフを繰り返す日程で活動しています。
文武両道を大切にしているため、月〜木曜日は学業を優先しています。ただ、練習がない日はそれぞれが自主練に取り組んでいます。
また、セーリングは日没後に出艇できないため、夏と冬で練習時間が大きく変わります。夏は9時〜18時までの約9時間、冬は9時〜16時と短くなります。
——悪天候時の練習や、陸地でのトレーニングはどのように行っていますか?
雨などの悪天候でも、基本的には変わらず出艇します。冬の琵琶湖は吹雪くこともありますが、寒さに耐えながら練習に励んでいます。練習が中止になるのは雷や強風など、危険と判断された場合のみです。
陸地でのトレーニングは、座学と筋トレが中心です。ヨットのルールは複雑なため、陸にいる時間はルールや戦略を学ぶ座学を重視しています。また私たちの部は、他大学と比べて筋トレが多いと言われるほど、トレーニングにも力を入れています。朝・夜に時間を設けて、ランニングやダッシュなどの基本的な筋トレだけでなく、ヨットで使う動作のトレーニングも取り入れています。
——メンバー構成や特徴を教えてください。
同志社大学体育会ヨット部のメンバーは1年生10名、2年生15名、3年生8名、4年生10名の合計43名、文理比率は「文系:理系=5:1」です(取材当時)。
メンバーの特徴は、ヨット初心者の割合が高いこと。経験者は1年生は2人、2年生は1人のみで、それ以外は全員初心者です。初心者が多い理由の一つは、新歓での丁寧な関わりです。
新歓期間中、メンバーはヨット練習を休んで新歓に集中するため、効率的に部の魅力を発信し、より多くのメンバーを集めることができています。
——新歓で工夫しているポイントや、新入生が感じる部の魅力を教えてください。
新歓にはかなり力を入れています。ポスター掲示やビラ配り、キャンパス内での声掛け、SNS発信など多方面からアプローチをしています。ヨットをキャンパスに持ってきて実際に見てもらったり、試乗会を開催したり、バーベキューなどのお楽しみ企画も実施します。
特に意識して伝えているのは、初心者でも活躍できるスポーツだということ。実際に入部したメンバーも、初心者でも全国優勝を狙える点に魅力を感じて入部を決めています。
——ヨットの種類(470級とスナイプ級)はどのように決まりますか?

1年生の最初の時期に両方の艇(470級とスナイプ級)を乗り比べます。
そこでの体験を通じて、乗りたいクラスを希望として伝える形で決定します。一度選ぶと基本的には4年間そのクラスで活動しますが、人数調整や本人の希望・適性によって変更する場合もあります。
たとえば、ある部員が470級を選んだ理由は、スピード感とスリルに魅了されたからです。470級はスピードが出る艇で、「トラッピーズ」という、自分の体を船の外に投げ出してバランスを取るアクロバティックな動作が求められます。初めて乗ったとき、湖面の上を“飛んでるような感覚”が面白くて、もっと乗りたい気持ちになったそうです。
経験者はこれまでの経験から選ぶことがほとんど。私は小学校からヨットをしており、高校では「420級」という470級よりもさらに小さい艇に乗っていました。大学でヨット部に入部したときも、420級と似ている470級を選ぶことは自然な流れでした。実際に470級は帆の面積が大きくてスピードも出ますし、よりパワーが必要なので体力面でもやりがいがあります。高校の経験を活かして続けたいと思ったのが理由です。
——大切にしている価値観は何ですか?
私たちが大切にしている価値観は、『人間形成』です。部の目標は、インカレでの総合優勝と定めていますが、最終的なゴールは“ヨットが速くなること”ではなく、“人として成長すること”だと位置づけています。
ヨットは自然を相手にするスポーツです。だからこそ、自分たちではどうにもできない環境の変化と常に向き合う必要があります。
設立当初から受け継がれている言葉に「礼儀・元気・時間厳守」という考えがあります。礼儀や元気を大切にして、仲間と努力し続けること。特に「時間厳守」は秒単位まで意識して行動するほど徹底しています。
——練習の振り返りや目標管理はどのように行っていますか?

練習後の全体ミーティングは、振り返りや目標管理のための大切な時間です。約1時間、輪になってクラス別ミーティングを実施します。また、大会後の振り返りには、OneNoteというオンラインツールを導入して、一人ひとりが反省点や改善点などを書き込み、それをみんなで共有して話し合えるように工夫しています。
——ファミリーデーについて教えてください。
ファミリーデーは毎年開催している恒例の行事で、日頃お世話になっている保護者やOBの方々に、私たちの活動を直接見てもらえる貴重な機会です。コロナの影響で中止された時期もありましたが、私たちが入部してからは毎年実施しています。
主な内容は試乗会とバーベキューです。試乗会では、家族やOBの方々に実際にヨットに乗ってもらい、普段どのように活動しているかを体験してもらいます。ヨットにあまり馴染みのない人も、実際に体感してもらえることで、部の理解がぐっと深まります。その後のバーベキューでは、ビンゴ大会などのレクリエーションも交え、支援してくださる方々と交流し、感謝の気持ちを伝えています。
——他の大学の部活と比べて特徴的な点は何ですか?
大きな特徴のひとつは、お金の運用をすべて学生が担っている点です。部費だけでなく、OB会からのご支援なども含め、年間で扱う金額は1,000万円以上にのぼります。
お金の使い道は、艇の修理費や備品の購入、遠征や合宿の費用までさまざまですが、学生自身が予算を組み、管理し、運用しています。1,000万円規模で予算管理を経験できる機会は、他の部活にない魅力です。
——部活動を通じて成長したと感じることは何ですか?
部活動では、何か課題や目標が出てきたときに、与えられるのを待つのではなく、自分で考えて動くことが求められます。最初は難しかったのですが、主体的に動く経験を重ねることで人間形成ができていきました。
たとえば、遠征やイベントの運営では、予算のやりくりからスケジュールの管理、トラブル対応まで、自分たちですべて行います。もちろん失敗もありますが、その分だけ学びが深まり、次への改善・対策を考えられるようになっています。
この経験を通して身につけた、どんな場面でもまず自分の頭で考えて動く習慣は、社会に出た後も必ず役立つ力だと実感しています。
——最後に、日々応援してくださる方々にメッセージをお願いします。
私たちは、本気で勝利を目指しています。応援してくださる方々の想いや期待を力に変えて前に進んでいきます。練習でもレースでも支えてくださる方がいることを忘れずに走り続けますので、これからも温かいご支援、ご声援をよろしくお願いいたします。
執筆:青木千奈(株式会社Koti)