部活は“育成の場”へ——学生と企業がつながる、中央大学ボクシング部の組織づくり

中央大学ボクシング部の指導理念は、「強いボクサーではなく、強い大人を育てる」こと。ただボクシングが強い選手を育てるのではなく、人間力や思考力の向上を重視したチームづくりには、企業との支援や共創が欠かせません。次世代のリーダーを育てる中央大学ボクシング部は、どのような想いで組織運営を行っているのでしょうか。
今回は、組織統括コーチの河口周悟さんにお話を伺い、部活動における学生との関わり方や、選手に意識させているポイント、協賛企業との連携など、中央大学ボクシング部の“軸”となる部分をお伝えします。
——現在の役職や具体的な活動について教えてください。

私は、組織統括コーチとして部に関わっています。平日は仕事の関係で部活に行けず、土曜日のみの参加ですが、組織運営全般の対応や資金管理、スポンサー対応などを担当しています。現在の監督は私と同じ中央大学ボクシング部の出身の同期で、彼が技術指導に特化し、私が運営面を担当という役割分担をしています。
——コーチとして関わるようになったきっかけは何ですか?
中央大学ボクシング部の組織改革に伴い、「若い力が必要」という話が持ち上がり、白羽の矢が立ったことがきっかけです。同期2人で「部を変えよう」と決意し、コーチとして携わっています。
私が学生当時はコーチが不在で、練習も運営も自分たちで担っていました。そのため離脱者も多く、当時を振り返ると「外部の指導者がいたら」「もう少し環境が整っていたら」と感じることがありました。せっかく大学で多くの時間と労力を費やしている学生が、何も得られずに終わるのはもったいない。
彼らが社会に出ても活きる経験を積めるようにしたいという思いで活動しています。
——コーチ就任後、部の変化はありましたか?

“当たり前”の基準が上がっています。練習量と質が向上し、特に部員の“言語化能力”が大きく向上しています。これまでは戦略について数行ほどしか書けなかった部員が、今では戦略を詳細に説明できるようになり、スキルだけでなく、人間力や思考力が向上したことが最も大きな変化です。
思考力の強化は、チーム力にも直結しています。以前は2部リーグ上位と1部リーグ最下位を行き来する状態が続いていましたが、2025年現在は1部リーグの中盤の順位を維持しています。全日本選手権の出場者や、チャンピオンも輩出しています。
その結果、高校生からも「中央大学ボクシング部に行きたい」という声が増え、ここ数年で部の注目度が高まっています。
——学生との関わりで意識していることを教えてください。
学生のプライベートな部分には基本的に干渉しません。アルバイトや恋愛などは本人の自由です。一方で、コンプライアンスに関わることは厳しく対応します。私たちコーチも30歳と若く、学生にとって距離の近い存在であり、相談しやすい環境をつくるよう意識しています。
練習内容はアプリで管理し、動画を残してコメント共有するなど、デジタルツールを積極的に活用しています。他にも、私が人材業界で働いている経験を活かし、部活以外にも就職活動のサポートを行うこともあります。
——企業との関わり方について、部としてどういう意識で臨んでいますか?
企業という“外の視点”が入ることで、部員の意識が変わります。たとえばnoteの発信では、学生が自分の名前を出して発信することで、良い意味での緊張感や責任感が生まれています。「見られている」という意識は、悪いことをすると「叩かれる」という緊張感もありますが、逆に言えば、頑張れば世に名前が広がるということでもあります。
実際に、選手の活躍によってアクセス数が増え、部員のモチベーション向上にもつながっています。「強いボクサーではなく強い大人を育てる」という方針のもと、社会との接点を意識した活動を大切にしています。
——企業に求める支援の形はありますか?

金銭的な支援はもちろんありがたいです。ただ一方で、練習を見学したり、一緒にトレーニングに参加するなど、自然な距離感の中での関わりは、選手にとってもやる気につながります。
「強いから応援する」ではなく、“社会で活躍する大人を育てる”という理念に共感して応援していただけることを何より嬉しく思います。ぜひ一度、中央大学ボクシング部の練習を目で見て、リアルな雰囲気を感じていただき、応援の声を届けてもらいたいです。
——学生に目指してほしい理想像や考え方はありますか?
他大学の偉大なる指導者の金言でもありますが、「人間力の向上なしに競技力の向上なし」という考えを大切にしています。
強い大人になるための手段として部活があり、言われたことをただやるのではなく、自分たちで考えて行動することが重要です。社会に出ると、整った環境ばかりではありません。複雑な状況の中でもPDCAを回し、自ら改善していく習慣が成果につながります。
監督の指示だけで動く選手よりも、自ら考えて行動できる選手こそが社会で活躍できる“強い大人”になれるはずです。ボクシングを通して、人生のあらゆる場面で力を発揮できる人になってほしいです。
執筆:青木千奈(株式会社Koti)