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「学生主体」で育む”仮説検証力”と”マネジメント力”——京都大学ヨット部

1935年設立の伝統を誇る、京都大学体育会ヨット部。部員数は約90名と学生ヨット部としては、日本一の規模となります。最大の特徴は、約90名の大所帯を「学生だけ」で運営していることです。国立大学でありながら強豪私立大学と肩を並べ、2025年には創部以来初となる全日本学生個人戦優勝の快挙を果たしました。その強さの源泉は「負けず嫌い」な精神だけでなく、随所に組み込まれた「組織を機能させる仕組み」と、部員一人ひとりに根付いた「仮説検証のサイクル」にあります。今回は次期副将の山田修太郎さんにお話を伺い、彼らがいかにして巨大な組織を動かし、成果に繋げているのか、その秘密に迫っていきます。

 

——巨大組織を動かす「人事・組織戦略」

 

 

約90名という日本一の部員数を維持・運営するため、彼らは戦略的な組織マネジメントを実践しています。

まず1つ目はリソースを“新歓”に集中投下することです。4月は練習を一時休止し、全員で新入生勧誘に全力を注ぎます。まずは「遊びでいいから」と体験してもらい、ヨットの魅力と部の雰囲気で惹きつけていきます。部員を集めていく上で、最も効果的であるのは「面白かった」という口コミが最も効果的であり、体験者の声を重視してリピートにつなげる“マーケティング思考”を持っています。

2つ目は、人材定着(リテンション)の仕組みがあることです。過去の反省から退部者が大幅に減少し、その背景には徹底したサポート体制があると山田さんは話します。現在は主に2つのサポート体制を取っています。上級生と下級生がペアを組み、技術的な相談だけではなく、モチベーションまでサポートを行うバディ制度を設け、各クラスにリーダーを配置し、定期的な面談を通じて部員の技術面・精神面の悩みを吸い上げ、管理し、組織のエンゲージメントを高める高度なピープルマネジメントを実践しています。

 

—— 勝利の再現性を生む「ナレッジマネジメント」

 

 

ヨット競技は、セオリーがインターネット上に少ないという課題があり、この課題を克服するため、彼らは独自の「知識を継承するシステム」を構築しています。

内部ナレッジ「フルセール」:引退した先輩たちが4年間の技術や経験をまとめた冊子で、代々の技術継承の教科書となっています。

外部ナレッジ「交換合宿」:東京大学・大阪大学・神戸大学と合同で実施する「交換合宿」では、お互いの部員を派遣し合い、積極的に外部の技術やセオリーを取り入れています。

未経験者の多い京都大学が、経験者揃いの私立大学に勝つためにはこのような効率的な技術の蓄積が不可欠となってきます。2023年のインカレでは当時2年生であった未経験者が5位入賞を果たすなど、こうした仕組みをを活用し、成果を上げています。

 

——負けず嫌いな気質が生む、「脅威的な成長サイクル」

 

 

部の雰囲気は「陸では和気あいあいと楽しむ一方、海上では一転して真剣に練習に臨む」という切り替えが特徴的であると山田さんは語ります。その根底には、部員に共通する「負けず嫌い」な気質があります。その強みが最大限に発揮されるのが、大会直前の10月です。部員たちは練習にフルコミットすることで、技術的な成長を遂げます。この土壇場での脅威的な追い込みこそが、今年の七大戦総合優勝や、全日本個人戦優勝という快挙に繋がりました。この急成長の背景には、単なる精神論ではなく、合理的な思考プロセスがあります。山田さんは部活動で得たものとして、「わからないことに対して仮説を立て、試してフィードバックを得る。このサイクルを回す習慣が身についた」と語ります。目標達成のためにフルコミットする情熱と、「仮説と検証」のサイクルを高速で回す冷静な分析力。これこそが、京都大学ヨット部の組織的な強みなのです。

 

——最後に

 

山田さんは、部の活動がOB・OG、保護者、スポンサー企業など多くの人々に支えられていると語っています。ヨットは費用がかかるスポーツだが、部員同士で高単価のアルバイトを紹介し合う文化で経済面を支え合いながら、スポンサーからの支援が遠征費などを大きく助けています。 彼らが掲げる価値観は「チームに関わる全ての人々が心の底から”誇れる“チームになること」。 約90名という巨大な組織を学生主体で動かし、「仮説検証力」を武器に全国の頂点に立った彼らの経験は、そのまま社会で求められる「組織マネジメント力」と「課題解決力」に繋がっていくことでしょう。

 

 

執筆:ツナカレメディア編集部