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「自分なりの軸」を持つ、ボートで掴んだ判断基準――広島大学ボート部OB山脇匡登さん

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マツダ株式会社でエアバッグの設計を担当する山脇匡登さん。広島大学工学部在学中はボート部に所属し、3年生で副主将、大学院進学後は後輩へ技術指導や運営アドバイスを行うコーチのような役割で活動していました。剣道からボートへ競技を転向し、競技を通して、自分なりの判断基準を持つことの大切さを学んだという山脇さんに、当時の経験と、現在の設計業務とのつながりについて伺いました。

 

――現在のお仕事について教えてください。

マツダ株式会社で車両のエアバッグ設計を担当しています。衝突時に乗員の怪我のリスクを最小限に抑える安全なエアバッグを開発していくのが仕事の軸です。車両の特性を考慮して適切に乗員を保護するエアバッグの特性を決定して図面を描きます。その図面をもとに部品メーカーと協働で商品化し、お客様に安全、安心をお届けする役割を担っています。

 

――学生時代のボート部について教えてください。

学部1年から3年、そして大学院1、2年の計5年間、広島大学ボート部で活動しました。3年生のときに副主将を、大学院進学後は後輩に技術面や運営面でアドバイスをするコーチのような立場を務めました。中学・高校は剣道部でしたが、基礎を先輩から教わる環境だったこともあり、我流のカウンターを主体としたスタイルで戦っていたところ、体格が大きい相手には通用しなくなり、体格的な限界を感じて引退しました。大学ではロボット工学に興味があり機械系の学部へ進学する中で、カレッジスポーツの中でも人間関係の良さに惹かれてボート部を選びました。上下関係が緩く、みんなでワイワイできる雰囲気が自分に合っていたと感じています。

 

 

――実績や印象的なエピソードを教えてください。

体重制限のある全日本軽量級選手権では、3年生のときにベスト16まで進みました。また、5人乗りの新人戦である西日本規模の大会では、指導役として乗艇し、4年生のときに3位に入りました。競技以外では、他大学のボート部が集まる交流会で、先輩に指名されて急きょ一発芸を任されたこともあります。緊張する場に立たされる経験を通じて、精神的なタフさも鍛えられました。今も広島でOB会のイベントが開かれるたびに、当時の仲間と顔を合わせています。

 

――活動で一番大変だったことは何ですか。

拘束時間の長さです。毎週末は泊まり込みで活動し、大会が近づくと平日も朝4時半に起きて練習してから授業に向かう生活でした。長期休暇中の合宿もすべて泊まり込みで、プライベートの時間はほとんどありませんでした。これだけ時間をかけるならボートに大学生活を捧げようと思えるようになるまでは、しんどいと感じていました。

2年生になってタイムが伸び悩んだ時期もありました。1年生のときは意識しなくても記録が伸びていましたが、2年生で停滞してしまい、「本当に勝つために練習しているか」を自分に問い直しました。これだけ時間をかけているのに勝てないのはもったいないと思い、意識を変えたところ、半年ほどで結果がついてくるようになりました。

 

 

――ボート部での経験から、一番学んだことは何ですか。

自分なりの「軸」を持つことの大切さです。理論的に考えて自信を持てるようになったことが、結果にもつながりました。それまでは、ただ練習すれば速くなると思っていましたが、自分がどんなフォームを目指し、どう動けば速くなるのかの理論を自分なりに理解してから、大きく変わりました。この考え方は、今の設計業務にも直結しています。部品メーカーから出てきた提案をそのまま鵜呑みにするのではなく、自分の中に判断基準を持っていれば、迷わず調整を進められます。まだ仕事における軸は定まりきっていませんが、自分なりの答えを持っておくことの大切さは、部活動で学んだことです。

 

――マツダに入社した経緯を教えてください。

配偶者が広島で働いていたことと、機械系の大手企業だったことが主な入社理由でした。もともと車そのものに強い興味があったわけではありませんでしたが、面接では、研究内容よりもボート部での経験を中心にアピールしました。大学時代の研究は放射線治療のシミュレーションで、業務には直接活きていませんが、「骨盤を立てて座る」というボートの姿勢と、社内のシート設計における姿勢制御の考え方を結びつけて伝えたことを覚えています。入社当時はシートの設計を担当し、現在はシートにも内蔵されているエアバッグの設計に携わっております。人の命を守る重要な部品に携われることにやりがいを感じています。

 

――仕事で難しいと感じることはありますか。

過去に前例のない問題に対して、的確な答えを出さなければいけない場面です。車種ごとに求められるサイズやスペックが異なるため、過去の事例では解決できない場面が出てきます。そうしたときは、まずは自分なりに調べて仮説を立て、上司に自分の考えを伝えた上でアドバイスをもらうという流れで進めています。最初から答えを人に委ねてしまうと成長につながらないので、まず自分なりの考えを整理して持っていくことを心がけています。この進め方は、正解が1つに定まっていないボート競技で、速い人のフォームを真似して原理を体感し、そこから改良していった経験と重なる部分があります。

 

 

――最後に、今の学生に向けてメッセージをお願いします。

部活動の経験は、就職活動において大きな武器になります。本気で考えて取り組んだことは、面接でも迷いなく語ることができ、言葉に説得力が生まれます。その経験をベースに、志望動機やキャリアプランにつながるストーリーを作っていけば、就職活動でも、自分らしさを伝えやすくなると思います。学生時代にOBや先輩と関わる機会が多かったことで、目上の人ともコミュニケーションを取りやすくなったことも、今振り返ると大きな財産になっています。振り返ると、もっと学外に目を向け、意欲的に情報を探しておけばよかったという思いもあります。当時は広島の中だけで完結してしまい、他大学との交流や、海外の資料を調べるところまで手が回っていませんでした。それでも、大学生活の多くの時間を注いだからこそ、本気で取り組むこと自体が楽しさにつながっていました。目の前のことにできる限り本気で向き合う姿勢を、今の学生にも大切にしてほしいです。

「自分なりの軸を持つこと」。ボート部での経験を通じて山脇さんが得たこの考え方は、正解のない課題に向き合う今の設計業務にも活きています。速い人の型を真似ることから始め、そこに自分の理論を重ねて改良していく学び方は、答えのない問いに直面したときの1つのアプローチとして、これから社会に出ていく学生にとって、大きなヒントになる考え方ではないでしょうか。

山脇匡登 / マツダ株式会社 エアバッグ設計
愛媛県出身。中学・高校は剣道部に所属し、広島大学工学部入学後にボート部で活動を始める。3年生で副主将、大学院進学後は後輩への技術指導や運営アドバイスを担当した。全日本
軽量級選手権でベスト16、西日本規模の新人戦で指導役として3位入賞の実績を持つ。現在は量産開発の設計職として、マツダでエアバッグの設計に携わっている。