「紫幸」に込めた想い。関わる人を幸せにするチームづくり——東京学芸大学サッカー部
東京学芸大学サッカー部は関東リーグ3部に所属し、3部での優勝と2部昇格を目標に掲げています。同時に、「紫幸」というスローガンのもと、関わるすべての人が幸せを感じられる組織づくりにも取り組んでいます。
部員数は全体で50名弱と比較的小規模ながら、戦術理解度の高さと、誠実に取り組む姿勢を強みに、日々の練習では細部までこだわっています。一方で、一人ひとりが常に力を出し切る難しさや、トップチームとセカンドチームの意識の差といった組織的な課題にも直面しています。
今回は、そうした課題に対する具体的な取り組みや、大学でサッカーを続ける意義について、副将の林築玖さんに話を聞きました。

——東京学芸大学サッカー部について概要を教えてください。
私たちは、関東リーグ3部優勝と2部昇格を目標に掲げています。ただし、結果と同じくらい大切にしているのが、「紫幸」というスローガンです。結果を追求することはもちろん重要ですが、勝利だけにこだわる組織にはなりたくありません。関わる全員が幸せを感じられる組織であることを、私たちは大切にしています。
部員には、卒業後の進路や大学で競技を続ける理由など、それぞれ異なる価値観があります。だからこそ、そうした多様性を認め合い、「ここで活動して良かった」と思える環境をつくりたいと考えています。「紫幸」は、チームカラーである紫と、「幸せ」という言葉を掛け合わせたスローガンです。そこには、物事を深く考える「思考」や、行動の方向性を示す「志向」など、複数の意味も重ねています。自分たちだけでなく、私たちに関わるすべての人を幸せにしたいという思いを表しています。
——チームの強みと、現在直面している課題について教えてください。
私たちの強みは、戦術理解度の高さと、誠実に取り組む姿勢です。守備時にプレスをかけるタイミングや、ゴール前への戻り方など、細部まで意識しながら練習で修正を重ねています。
関東リーグの他のチームと比べて、私たちは決して個の力で突出した集団ではありません。だからこそ、全員で連動し、大胆にプレーすることを大切にしています。組織として連携して戦う姿勢が、私たちらしさだと考えています。
一方で、その真面目さが慎重さにつながってしまう場面もあります。失点後にもう一度流れを引き寄せる力や、試合を決定づける場面で思い切ってプレーする力には、まだ課題があります。守備面で掲げている基準にはまだ届いていないため、細部にはさらにこだわる必要があります。課題はありますが、日々の取り組みの方向性は間違っていないと感じています。
課題を克服するために、監督からは、練習メニューによって力の入れ方を変えず、常に100%の出力で取り組むよう指導されています。たとえば、5対5のゲーム形式の練習では、ゴール前の守備で相手にしっかり寄せ切ることを意識しています。守備を受け身のプレーではなく、ボールを奪いにいく攻撃的なプレーとして捉えることで、ゴールへ向かう姿勢やプレーの大胆さにつなげようとしています。

——練習の基準を引き上げ、全員が100%で取り組むために、どのような工夫をしていますか。
100%の出力を習慣化するために大切にしているのは、チーム内に高い基準を示し続けることです。部員の中には、競技でさらに上を目指す選手もいれば、サッカーとの向き合い方が異なる選手もいます。だからこそ、まずは上を目指す選手が、自らのプレーで基準を引き上げることを意識しています。監督からも、上を目指す選手はさらに突き抜け、伸び悩んでいる選手はその選手たちを追い越すつもりで取り組むよう求められています。
監督が選手のパフォーマンスを立場に関係なく評価してくれることも、大きな要素です。スタメンやサブといった立場に関係なく、その日の練習で良いプレーをした選手をきちんと評価します。そうした指導方針によって、選手同士に健全な競争が生まれ、厳しく要求し合いながらも互いを認め合う雰囲気がつくられています。
真面目に取り組む組織だからこそ、一つひとつのメニューに全力で向き合う姿勢があります。ただ、与えられたタスクを正確に実行しようとするあまり、練習全体の熱量が上がり切らない場面もあります。単にポジションを争うだけでなく、全員で成長していく雰囲気をどうつくるか。そこが、今まさに試行錯誤している部分です。
——激しい競争があるなかで、チーム全体の一体感はどう作っているのでしょうか?
チーム全体の一体感を高めるために意識しているのは、トップチームとセカンドチームの間に壁をつくらないことです。特に、日常的な声かけと、応援のあり方をそろえることを大切にしています。
以前は、トップチームとセカンドチームの間でコミュニケーションが不足し、別々の組織のようになっていました。この状況を変えるため、まずは日頃から声をかけ合うことを意識しています。競技面で要求し合うだけでなく、セカンドチームの試合結果を気にかけたり、サッカー以外の話をしたりすることで、どのカテゴリーの選手もチーム内に居場所を感じられるようにしています。

——大学で競技を続けるなかで、個人的な挫折や失敗の経験はありますか?
対人関係において、自分の考え方を見直すきっかけになった出来事があります。以前の私は、大学で競技を続ける以上、部員全員が同じ熱量でトップチームのスタメンを目指しているものだと考えていました。
しかし実際には、競技との向き合い方や、大学生活で大切にしているものは一人ひとり異なります。その違いを十分に理解しないまま、自分の基準で相手に向き合ってしてしまった時期がありました。
もちろん、チームとして高い目標を掲げる以上、互いに要求し合うことは必要です。ただ、その前提として、相手が何を大切にし、どのような思いでサッカーを続けているのかを理解することが欠かせないと感じました。
この経験を通じて、一人ひとりの価値観や選択を尊重したうえで関わることの大切さを学びました。今は、競技への向き合い方が違っても、その人なりの理由や背景を理解することを大切にしています。そのうえで、チームとして同じ方向を向ける関係を築いていきたいと考えています。
——リーダーとして、人との向き合い方をどのように学んできたのでしょうか?
大学入学以降、他大学のスポーツチームの主将が集まる交流会に参加したり、本を読んだりしながら学び続けています。そこで得ているのは、単なるリーダーシップの技術ではなく、人としてどうあるべきかという視点です。
以前は、自分とは異なる熱量で競技に向き合う選手に対して、もどかしさを感じることもありました。しかし、それぞれに大切にしていることや、自分なりのペースがあります。そのことに気づいてからは、自分の考えを押し付けるのではなく、まずは自分自身が全力で取り組む姿を見せ続けることが大切だと考えるようになりました。
座学や交流会で知識を得ることも大切ですが、それを実践の中で学べる場所が部活動です。競争が激しい環境では、周囲への配慮を見失ってしまうこともあります。それでも、どのような状況でも他者を尊重し、誠実に向き合える人間でありたいと考えています。その理想に近づくために、現在も葛藤しながら自分自身と向き合っています。

——競技を通じてどのような人間でありたいと考えていますか?
私が目指しているのは、どのような状況でも他者を思いやり、周囲に前向きな影響を与えられる人間です。試合に出ているかどうかに関係なく、仲間から信頼される存在でありたいと考えています。組織の中で競争しながらも、相手を尊重する姿勢は忘れたくありません。
高校時代は、競技能力の高い選手が評価されやすい環境にいました。しかし大学では、それだけでは通用しないと感じています。将来、競技を続けない選手とも関わる中で、私にとってサッカーは、人生を豊かにするための一つの手段でもあると考えるようになりました。
だからこそ、競技力を高めるだけでなく、人としても信頼される存在でありたいです。周囲への思いやりを持ち、チームに前向きな影響を与えられる人間になることが、私にとって競技を続けるうえで大切な目標です。
——応援してくださる方々へ、メッセージをお願いします。
日ごろから応援をしていただき、ありがとうございます。私たちは国立大学のチームとして、関東リーグで強豪の私立大学に挑んでいます。試合に勝ったときの喜びも、負けたときの悔しさも全員で共有し、自分たちの力でチームを熱くしていく。その経験は、学生スポーツならではのものだと感じています。
部員数が少ないからこそ、一人ひとりの存在がチームに大きな影響を与えます。勝利の喜びも、そこに向かう過程の熱量も、仲間と一緒に味わいたいと思っています。日頃から支えてくださる皆様への感謝を忘れず、これからも全員で目標に向かって進んでいきます。引き続き、応援のほどよろしくお願いいたします。