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下位チームの主将経験が、上場企業で“一人”人事として新卒採用の立ち上げに挑む原点となった——立命館大学サッカー部OB 桶河是佑

立命館大学サッカー部。150名を超える部員が所属し、監督一人のもと「選手主体」で運営される巨大組織です。その中で桶河是佑さんが過ごしたのは、プロ予備軍のTOPチームではなく、ほとんどが4軍・5軍という下位カテゴリー。限られた練習環境の中で、プロへの夢を断念した部員たちが抱える停滞感と向き合う日々でした。

その「どん底」とも言える環境で4年生時にキャプテンを務めた経験は、なぜ現在、上場企業で人事として組織を支える仕事へとつながっているのでしょうか。

ベンチャー企業で営業を経験した後、現在は株式会社jig.jpで「一人」人事として新卒採用の立ち上げに挑む桶河さん。学生時代の葛藤と、そこから得た学びがどのように仕事へとつながっているのかを伺いました。

 

 

——桶河さんの簡単なご経歴と現在のお仕事を教えてください。

 

現在は株式会社jig.jpで人事を担当しており、中途採用を中心に、新卒採用の立ち上げまで採用業務全般を担っています。

キャリアは、株式会社BuySell Technologiesでの営業職から始まりました。実力主義のベンチャーという厳しい環境の中で、1日に何軒も、県をまたいで新規のお客様宅を訪問する営業を約1年半経験しました。そこで成果を出したことが評価され、人事部へ異動。当時は年間300人規模の新卒採用業務や研修運営に携わり、年間で1000人以上の学生と面接・面談をおこなっておりました。

組織が大きくなるにつれて役割が細分化される中で、「もっと手触り感のある採用や組織づくりに関わりたい」と考えるようになり、現在のjig.jpへ転職しました。現在は、社員数が100名を超える組織拡大フェーズの中で、採用戦略の立案から実行まで裁量を持って取り組んでいます。一人で採用全体を担う今の環境は、まさに体育会時代に培った力が試される場だと感じています。

 

——立命館大学サッカー部という組織の環境と、当時の役割について教えてください。

 

自分が在籍していた当時の立命館大学サッカー部は、監督一人で150人の選手を見ている、非常に「選手主体」の組織でした。チームはAからC2まで5つのカテゴリーに分かれており、練習メニューの作成や試合分析は各々の所属チームで行うのはもちろん、サッカー部の運営としても広報、用具管理、イベント企画などを、会社のように「部署」に分かれ選手自身が運営しています。

私は主にC1・C2といった下位カテゴリーに所属していました。特に最下位カテゴリーでの活動は過酷で、サッカーコートの半面を60人で使い、練習時間はわずか1~2時間。それでもAチームと同じ規律が求められます。

その中で私は部の運営面では「用具清掃リーダー」務め、備品管理の仕組みづくりなど、サッカー以外の部分でも組織を支える役割を担っていました。

 

 

——“下のチーム”での経験において、最も困難だったことは何ですか?

 

チームのキャプテンを務めた際に直面した、「部員のモチベーション維持」です。そこには、プロへの夢を断念したり、怪我で自信を失ったりした元エリート選手たちが多く集まっていました。

彼らは技術的には私より上手い選手ばかりでした。だからこそ、単なる言葉だけの指導はほとんど響きません。練習時間も短く、環境も恵まれていない中で、どうすれば本気で取り組んでもらえるのかを徹底的に考えました。

そこでたどり着いた答えは、「背中で示し続けること」と「勝利という結果を出すこと」でした。当たり前のように思われますが誰よりも声を出し、泥臭くプレーし続ける。そして紅白戦で上のカテゴリーに勝つという執念を見せる。彼らにとって一番の特効薬は、やはり「勝つこと」でした。また下のチームが本気で戦う姿を見れば、上のチームも焦りを感じ、組織全体に火がつきます。この「自らリードして周囲を動かす経験」は、営業時代にチームを鼓舞する場面や、人事として組織に働きかける現在の仕事にも直結しているように思います

 

——「プロへの夢」を断念した瞬間、どのような思考の切り替えがあったのでしょうか?

 

大学1年生の頃、自分より遥かに高い能力を持つ同期や先輩たちが、どれだけ努力してもプロになれない現実を目の当たりにしました。そのとき、「自分はこの道で生きていくことはできない」と冷静に悟りました。

ただ、それはネガティブな挫折ではありませんでした。サッカー界における「プロの基準」を肌で知ることができたのは大きな収穫だったと思います。

プロを目指す選手たちは、食事や睡眠、日々の準備に至るまで、一般の学生とは次元の違う基準で生活しています。そこで私は、「どんな環境に置かれても、その中でどう勝つかを考え抜き、すぐ行動に移す姿勢」が、サッカーとは異なるビジネスの世界でも通用する力になると感じました。

「コート半面しかない」「誰も練習を見てくれない」と嘆くのではなく、その限られた時間で何ができるかを考える——この環境を言い訳にせず結果に拘る姿勢が、今のキャリアを支える大きな柱になっています。

 

 

——体育会時代のご経験が、今どう活きていると思いますか?

 

大きく二つあります。「仕組み化する力」と「姿勢で周囲を巻き込む力」です。

例えば、jig.jpでの新卒採用の立ち上げは、前例もノウハウもない状態からのスタートでした。これは大学時代の部署活動で、用具管理の仕組みを一から作った経験や、「コート半面・練習1時間・チームメンバー60人」という環境の中で質の高い練習を実現する方法を考え続けた経験とよく似ています。

現場の課題を整理し、ルールを作り、実行するプロセスは、体育会で身についたものだと思います。

また、人事の仕事は一人では何も成し遂げられません。現場の社員や協力会社を巻き込む必要があります。そのためには、まず自分自身が誰よりも本気で動き、成果への執念を見せることが重要です。

C2チームの主将時代、メンバーの心を動かしたのは理屈ではなく、私のプレーする姿勢でした。「背中で示して周囲を納得させる」というスタンスは、今の仕事でも大きな武器になっています。

 

——桶河さんが考える「体育会人材の真の価値」とは何でしょうか?

 

「組織で動くことに対する基準の高さ」だと思います。

挨拶をする、時間を守る、約束を果たす。社会人として当たり前のことですが、体育会出身者は、それを「組織の規律」として徹底できる人が多いと感じます。

また、社会では自分と合わない人や、モチベーションが異なる人とも成果を出さなければなりません。体育会の学生は、多様な人間が集まる組織の中で衝突しながらも、同じ目標に向かう難しさを経験しています。

目的のために自分の役割を果たすプロ意識こそが、企業が体育会学生に期待する価値だと、人事の立場になって改めて感じています。

 

 

——これから新たな門出を迎える現役学生へメッセージをお願いします。

 

まず、「体育会」という肩書きは、あくまで社会に出る入口での期待値に過ぎないということを意識してほしいと思います。社会に出た瞬間、その看板は外れ、一人のプロとして実力が問われます。

だからこそ、「部活動を頑張った」で終わらせるのではなく、自分がなぜその選択をし、どう考え、どう行動したのかを言語化しておくことが大切です。

最近の学生はとても優秀で冷静ですが、一方で「失敗を恐れず飛び込む大胆さ」が少し足りないようにも感じます。OBの足跡をたどるだけではなく、未知の領域に挑戦してほしいです。

今、目の前にある理不尽や苦しみは、将来スポーツ以外の世界でプロとして活躍するための「予行演習」です。自信を持って、目の前の1分1秒をやり抜いてほしいと思います。