全員初心者、専用リンクなし。逆境のチームが「全国ベスト3」を本気で狙う理由——筑波大学女子アイスホッケー部
筑波大学女子アイスホッケー部の選手は、全員がスケート未経験から競技を始めています。大学周辺に専用リンクはなく、練習のたびに千葉県まで片道2時間をかけて移動し、氷上練習は週1回のみという環境です。そのような中、昨年、シード校などの強豪に勝利し、全国大会ベスト4という結果を残しました。今回は、未経験の集団がどのようにして全国レベルのチームへと成長したのか、キャプテンの加藤さん、2年生の中村さん、マネージャーの山士家さんに話を聞きました。

——貴団体について概要を教えてください。
私たち筑波大学女子アイスホッケー部は、プレイヤー20名、マネージャー5名の計25名で活動しており、部員全員が大学からアイスホッケーを始めた完全初心者で構成されています。昨年は日本学生女子アイスホッケー大会で初のベスト4に進出しました。今年は経験者が集まる強豪校を破り、「全国ベスト3」を目標に掲げています。
茨城県内には通年で滑れるリンクがないため、千葉県のリンクまで車を乗り合わせて片道約2時間かけて移動しています。大きな負担はありますが、車内で学年も学部も違うメンバーが対話を重ねることで学年間の垣根が低くなり、風通しの良い関係性を築くチームづくりにおいて貴重な時間にもなっています。

——全員初心者の集団が、限られた環境でどう技術を向上させていますか?
氷上練習は週に1回、88分間と限られています。この時間を最大限に活用するため、マネージャーが10分、8分といった分刻みでメニューのタイム管理やビデオ撮影などを徹底し、練習を円滑に進行させています。プレイヤーが競技に集中できる環境を整えることが、マネージャーの重要な役割です。
さらに、週1回の練習だけでは技術の向上に限界があるため、私たちは男子部の練習に「ビジター」として参加する仕組みを積極的に活用しています。自主参加ですが、上級生を中心に多い部員では週に4回、ほとんどのメンバーが週2回以上、自らリンクへ足を運び、氷上練習の時間を確保しています。
また、リンク外での振り返りと戦術の共有に注力しています。練習前には1時間かけて全員でYouTubeにアップした練習動画を見るビデオミーティングを行います。「何分何秒のこのプレーはどうすればよかったか」をコメント欄に書き込み、議論を交わします。近年、このビデオ分析の質と量がチーム全体で向上し、組織の大きな強みになってきています。
——新入生が挑戦しやすい環境はありますか?
1年生には2年生が指導役としてつき、初心者が最初につまずきやすいスケーティング技術を半年から1年ほどかけて、基礎から丁寧に指導します。
また、アイスホッケーを始める際のハードルとなるのが防具の費用です。アイスホッケー部では一般的に、入部時に新品をすべて買い揃えることが多く、15万円ほどかかってしまいます。そのため、私たちは代々の先輩から防具を引き継ぐ仕組みを整えており、初期費用を大幅に抑えることができます。金銭的な負担を軽減し、新しい挑戦をスタートしやすい環境があることは私たちの大きな強みです。

——一つの目標に向かう中で、どんな難しさや気づきがありましたか?
チームの規模が大きくなるにつれ、学年ごとのカラーや価値観の違いが浮き彫りになりました。現在の4年生は調和を重んじるタイプ、3年生はホッケーに対して意見をはっきり言うタイプ、そして下級生は一歩引いて全体を見るタイプが多い構成です。
その中で、性格や考え方の異なるメンバー同士が「全国ベスト3」という共通の目標に向かって意見をすり合わせる過程で、価値観の違いによる衝突が生じていました。
——その壁を越えるために、どのような行動をとりましたか?
冬の合宿でお互いの本音を率直に言い合う時間を設け、組織としての基準を明確に設定しました。
これまではメンバーの優しさが先行し、個人の事情を優先してしまい、組織としての基準が曖昧になっていました。授業やアルバイトの疲れといった背景を考慮しすぎて、お互いに言うべきことを言えない状態だったのです。
そこで、個人的な事情があるのは理解した上で、組織の守るべきものは守る、とはっきり伝えるようにしました。例えば「ビデオミーティングは参加必須」といった明確なルールを設け、個人の事情に配慮しつつも、最終的にはチームの目標を優先するようにしました。

——格上の上昇軍団を破り、初のベスト4を掴んだ死闘の舞台裏を教えてください。
昨年の全国大会ベスト4を決めた一戦は、これまでの私たちの積み重ねが試されるような試合でした。相手はベスト4常連の強豪・琉球大学でした。試合は互角の攻防が続く大接戦となり、最後はサドンデスのペナルティショット(PS)戦までもつれ込みました。
極限のプレッシャーの中、最後にシュートを決めたのはチームで誰よりも自主練習をしていた先輩でした。そして相手のシュートを見事に止めて勝利を確定させたのも、一番リンクに足を運んでいたキーパーの同期でした。「自主練習で積み上げた時間は結果に結びつく」という事実を、最高の舞台で、最高の結果として証明してくれた忘れられない瞬間です。
——この組織での経験を通して、社会で活きるどのような力を得ましたか?
マネージャーの視点から言えば、裏方として組織を支える確かな手応えを感じています。初心者だった部員たちがアイスホッケーにのめり込み上達していく姿を間近で見られる喜びや、自分が支えたチームが大会で結果を出した時の達成感は非常に大きいと感じています。
また、プレイヤーとして最も成長したのは、個人の背景を深く理解し、意見を受け止める「レシーブ力」です。例えば、全体練習に全力を注ぐ部員と、個人の自主練に時間を割きたい部員とでは、同じ「努力」でも形が異なります。
表面的な行動だけで判断せず、「なぜその行動をとるのか」まで落とし込んで考えることで、意見がぶつかった際にも頭ごなしに否定せず、お互いを理解し合えるようになりました。自分たちで練習メニューを考え、プレイヤーとマネージャーが一丸となって1からチームを作るこの経験は、異なる価値観をまとめ、目標に向かって組織を動かす力として、社会に出ても必ず活きると考えています。

——いつも応援してくださっている方々へのメッセージをお願いします
日頃から支援していただいているOB・OGの皆様、私たちの熱意に共感して無償で指導してくださっているコーチ陣やプロ選手の方々、そして関わってくださる全ての関係者の皆様に、心より感謝申し上げます。皆様の支えがなければ、私たちの活動は成り立ちません。「全国ベスト3」という結果で、恩返しができるよう全力で取り組んでいきます。
そして新入生の皆さんへ。全員が初心者からスタートするこの環境で、大学から新しいことに挑戦してみませんか。ぜひ一度、体験に来ていただけたら嬉しいです。皆さんとお会いできる日を楽しみにしています。