孤独な経営者に伴走する「CEOアドバイザー」という選択——経営戦略センター株式会社
IPOを目指す経営者にとって、その道のりは決して平坦ではありません。資金調達や組織拡大、投資家との対話など、さまざまな壁が立ちはだかります。
事業計画や資金調達の相談に乗る中で、伊藤雅仁さんが何より重視しているのは、経営者の“想い”を言語化することです。経営戦略センター株式会社は、IPOを目指す企業やさらなる成長を志すオーナー企業など、一人ひとりの経営者に寄り添いながら、成功確率を高める支援を続けています。
今回は、代表取締役社長の伊藤雅仁さんに、経営者が直面するリアルな壁や支援を通じて実現したい社会の姿について、お話を伺いました。

——貴社の事業内容について教えてください。
当社は、オーナー企業の事業成長支援と、スタートアップのIPO支援を中心に展開しています。
一つは「CEOアドバイザー」です。事業をさらに成長させたい、あるいは将来的に上場を目指したいと考えている企業の経営者に対し、月に1〜2回、オンラインで経営全般の相談に乗っています。戦略設計や組織体制、資本政策など、テーマは多岐にわたりますが、経営者の立場に立った実践的なアドバイスを行うことを重視しています。
二つ目が、「Nマイナス」というIPOを目指す経営者向けのコミュニティ運営です。数年以内の上場を目標とする経営者を対象に、毎月リアルでの定例会を開催し、実際に上場を果たした企業の社長に登壇いただき、IPOまでのプロセスや意思決定の背景、体験談を共有しています。さらに、オンラインでの経営相談会や、各分野の専門家によるセミナーも実施しており、上場を目指す経営者同士がつながり、学び合える場を提供しています。
他にも、YouTube「上場の法則」などを通じて、上場や経営に関する情報発信も行っています。直接的な事業はアドバイザリーとコミュニティ運営ですが、その前段として、経営や上場に関する知見を広く届ける活動にも力を入れています。

——なぜ「CEOアドバイザー」という形に行き着いたのでしょうか?
私はこれまで、上場企業の代表を二度務め、一からIPOを実現し、時価総額1000億規模まで会社を成長させてきました。その中で強く感じたのは、経営者という立場が持つ影響力の大きさと、その責任の重さです。経営者は、会社で働く人たちの人生にも、社会にも大きな影響を与えます。一方で、最終判断を下すのは常に自分であり、非常に孤独で重い役割でもあります。だからこそ、経営者に伴走できる存在が必要だと感じるようになりました。
専門性の高いコンサルタントは数多くいますが、ゼロから事業を立ち上げ、一定の規模まで実際に経営してきた経験をもとにアドバイスできる人の数は限られます。経営者としての視点と、ファイナンスの視点。その両方を持ち、さらに成功してきた経営者とのネットワークも活かせる。その立場だからこそ出せる価値があると考え、「CEOアドバイザー」という形に行き着きました。
——この事業を立ち上げた背景には、どのような想いがあったのでしょうか?
正直、ずっと考えていた「企業の成長に貢献できる仕事がしたい」という思いが実現した、という感覚です。私は新卒で金融機関に勤めていましたが、本質的には“経営者を支えたい”という思いがありました。その後、自らが会社を経営する立場を長く経験しましたが、やはり経営者の果たす役割の大きさを実感しました。経営者になれば、新しいサービスや事業を生み出すことで社会を良くすることもできるし、雇用を創出することもできる。つまり、経営者の想いが形になることで、社会が豊かになっていくんです。私は、それを“支える”仕事をしたいと考え、経営戦略や財務の観点から経営者をサポートする今の事業を立ち上げました。コロナ禍をきっかけに働き方が変わり、オンラインでも支援が可能になったことも一つの後押しになりましたが、以前からやりたかった仕事に、ようやく本格的に取り組む形になったと感じています。
——経営者支援において、特に大切にしていることを教えてください。
最も大切にしているのは、「数字の前に、将来どういう会社になりたいのかを明確にすること」です。事業計画を作成する際、どうしても売上や利益といった数字に目が向きがちですが、その前提には必ず“戦略”があります。そして戦略の前には、「どんな会社を目指したいのか」という“将来像”があるはずです。どの事業を、どの順番で、どういうやり方で進めていくのかは、その将来像から逆算されるものです。私が関わってきた経営者の多くは、もともと強い想いを持っていましたが、それがうまく言語化できていない状態に直面することもありました。社長の頭の中では「こうなりたい」というイメージがあっても、それが曖昧なままだと、社内のメンバーには伝わりません。だからこそ、将来像や理念がはっきりしていない場合は、そこを丁寧に言語化する時間を取ります。社長の中にある“モヤッとした想い”を言葉に落とし込む──それができて初めて、組織全体が同じ方向を向き、具体的な行動計画や数値計画が意味を持ち始めるのです。数字はあくまで結果であり、出発点ではありません。まずは目指す姿を明確にし、戦略を定め、そのうえで事業計画を描く。そこを一番大切にしています。

——IPOを目指す企業にとって、どのような壁がありますか。
IPOを目指す企業の壁は、大きく2つのフェーズで異なります。
1つ目のフェーズはすでに企業が上場準備に入っている場合です。このフェーズでは、証券会社や監査法人、投資家とのコミュニケーションが大きな課題になります。日本には約400万社ある中で、上場企業は約4,000社ほどしかありません。多くの経営者にとってIPOは初めての経験であり、何に注意すべきか分からないという不安を抱える経営者が多いと感じています。
2つ目のフェーズはまだ成長途上の企業です。ここでは事業計画の精度や資金調達が、主な壁になります。特に投資家に自社の成長性をうまく伝えられず、思うように資金が集まらないという悩みを受けることが多いです。また、事業拡大に伴う人材採用や幹部層の育成といった組織面の課題がでてくることもあります。どちらのフェーズに関しても、最終的に差を分けるのは、“経営者の姿勢”です。数字を達成することへの強いこだわりと、人を惹きつける明確なビジョンを持てるかどうかが、大きな分岐点になると感じています。
——今後、どのような会社を目指していきたいと考えていますか。
今後の理想像としては、日本中の経営者に頼っていただける存在になることです。規模感で言えば、10年後には1万社に貢献している状態を目指したいと考えています。日本には約400万社ありますが、そのうち1万社の経営に良い影響を与えられたら、大きな意味があると思っています。必ずしもIPOを目指す企業だけではなく、事業をより良くしていきたいと考える経営者全体に貢献できる形に広げていきたい。経営について真剣に考え、より良い会社にしたいという思いを持つ方々が集まる場にしていきたいと考えています。
そして、その経営者一人ひとりの「良い思い」が実現していけば、結果として世の中に良いサービスが広がり、社会全体がより豊かになっていく。そうした循環を生み出せる存在でありたいと思っています。
——学生や若い世代に伝えたいことはありますか。
まず学生時代には、将来振り返ったときに「これだけはやり切った」と言える経験を一つでも持ってほしいと願っています。スポーツでも勉強でも、課外活動でも構いません。本気で取り組んだ経験は、自分の軸や自信につながり、社会に出た後の大きな土台になります。
そして就職では、給料や知名度、今の勢いだけで選ぶのではなく、「その会社のカルチャー」をしっかり見てほしいと思います。最初の職場は、その人にとって社会の縮図になります。良いカルチャーの中で働く経験は、その後のキャリア観や仕事観にも大きな影響を与えます。また、自分に合った仕事や強みは、特別なスキルの中にあるとは限りません。これまでの人生の中で、自然と続けられてきたことや、人から評価されたことの中にヒントがあります。自分の得意や好きに目を向け、それを活かせる環境を選ぶことが、長い目で見て大きな差になると思います。

伊藤雅仁
経営戦略センター株式会社 代表取締役社長
1991年同志社大学卒業後、三菱銀行、ソフトバンク財務部を経て、SBIホールディングス取締役執行役員常務。Yahoo!子会社社長として、同社の過去最高益50億円達成。その他、上場企業2社で代表取締役を務め、時価総額1000億円も達成。取締役を含めると9社の上場に関与。現在は、IPOを目指す経営者コミュニティ「Nマイナス」、YouTube「上場の法則」の運営、複数社で、アドバイザー・社外役員を務め、成長戦略をはじめとする経営全般を支援。ローソン銀行社外取締役、ラーニングエッジ社外取締役、MFS社外取締役(東証グロース)。