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確かな情報が、未来を守る力になる。予防医療で変わる“女性の生き方”——NPO法人女性予防医療推進機構

女性予防医療推進機構は、性感染症や子宮頸がんをはじめとする女性の予防医療を推進するNPO法人です。

性や健康、医療の話題は、現在もなお「恥ずかしい」「重い」「触れづらい」と受け取られがちです。しかし、その“空白”こそが、多くの女性の未来を奪ってきた現実でもあります。

予防医療を通して、「確かな情報にアクセスできること」──これは女性の生き方を守る力につながります。

今回は、理事長の伊奈絵里佳さんに、NPO法人女性予防医療推進機構の取り組みや、その原点にある想い、学生や若い世代が“当事者”として関わる社会課題としての予防医療の姿について、詳しくお話を伺いました。

 

 

——まずは貴団体の事業内容を教えてください。

 

NPO法人女性予防医療推進機構は、女性が健康への不安や情報不足によって人生の選択肢を狭めることのない社会の実現を目指しています。確かな医療情報を広く届けるためには、検査や医療に適切なタイミングでつながれる仕組みづくりが欠かせません。私たちは地域医療とも連携しながら、女性が自分の健康状態を知り、必要な医療にアクセスできる環境づくりに取り組んでいます。

具体的な活動は、検査・検診の啓発や受診につながる仕組みづくり、教育機関・自治体・企業・医療機関との連携を通じて、女性が健康不安なく生き働ける社会基盤の構築です。具体的な活動としては、大学講演や啓発セミナー、白書の作成やイベントでの出展などを行っています。

日本では、病気になってから治療する「治療医療」が中心で、予防について学ぶ機会がまだまだ少ないのが現状です。その結果、「知らなかった」「気づかなかった」「誰にも相談できなかった」という理由で、身体や心に大きな負担を抱えたり、手遅れになってしまったりという方も少なく在りません。

私たちは、そうした情報格差をなくし、女性が自分の身体を正しく理解し、主体的に選択できる社会を目指して活動しています。

 

——なぜ「女性予防医療」に取り組もうと思われたのでしょうか?

 

きっかけの一つは、私自身の経験です。私は過去、婦人科検診を後回しにしてしまった結果、手術を受けることになったんです。その過程で、検査や医療に対する心理的なハードルの高さを実感しました。さらに当時は全国転勤のある生活をしていたため、地域によって医療環境に差があること、インターネット上で信頼できる情報にたどり着きにくいことにも強い不安を感じました。

具体的には、地方の病院では経過観察になった一方で、東京の婦人科を受診した途端に「すぐ手術が必要」と言われたことです。同じ症状でも、地域や医師によって判断が異なる可能性があるという“医療格差”に、違和感を覚えました。実際に医療現場では診察時間が限られており、「この結果が何を意味するのか」「この先どう行動すればいいのか」といった不安の解消までを、病院だけで完結させることが難しい場合もあります。ではどこで女性は情報を集めたらいいのか。自分の身体を守るための情報が、ネット上には情報があふれているものの、自分に適した内容が分からないことや間違っている情報も多いことに課題を感じたんです。

その後、学生や若い女性へのヒアリングを重ねる中で、子宮頸がんや性感染症や婦人科疾患について「聞いたことはあるけど詳しくは知らない」「自分がなるとは思っていなかった」「知識がないことで後悔した」という声を数多く耳にしました。実際に、順天堂大学の研究では、働く女性で女性特有の不快な症状があっても産婦人科を受診した人は19%にとどまるという結果が報告されています。(参照:https://www.juntendo.ac.jp/assets/0f9380fa0608d0af11e860aa666bf074.pdf?utm_source=chatgpt.com)情報を知らないことで、自分を守れない状況が生まれている。その“情報の壁”こそが、大きな問題だと実感したんです。

 

 

——「女性予防医療」をNPO団体として取り組む意義について教えてください。

 

女性予防医療をNPOとして取り組む理由は、「本当に支援が必要な人たち」に届けるためです。企業であれば、福利厚生として検査や情報提供を行うことはできますが、その対象はどうしても上場企業や大手企業に勤めている方が中心です。そうした方々は、経済的にも比較的安定していて、会社を通じて医療や健康に関する情報にも触れやすい環境にあります。

一方で、性感染症や婦人科疾患のリスクが高いにもかかわらず、情報にも検査にもアクセスできていない若い世代や学生、経済的に厳しい状況にある女性は、企業の福利厚生の枠組みでは救いきれません。検査や医療への優先順位が下がってしまうのが現実だと思います。

だからこそ、女性が病院を受診する前の段階で正しい知識に触れ、自分の身体を知るきっかけを届けたいと考えるようになりました。私たちは医療を代替する存在ではなく、検査や受診へのハードルを感じている方が医療につながるまでの橋渡し役として、予防医療にアクセスしやすい仕組みづくりに取り組んでいます。

 

——具体的には、どのような活動を行っているのですか?

 

セミナーや勉強会の開催、情報発信、専門家との連携を通じて、予防医療の重要性を伝えています。大切にしているのは、難しい専門用語を並べるのではなく、わかりやすい内容で発信し「自分ごととして理解できること」です。

また、私たちは医師や専門家と一般の方をつなぐ役割も担っています。病院に行くほどではないけれど不安がある、誰に相談すればいいかわからない。そうした“グレーな悩み”を抱える人が、安心して一歩踏み出せる場をつくることも、私たちの大切な役割だと考えています。

 

 

——活動を通して、特に印象に残っている出来事はありますか?

 

「この話をもっと早く知っていればよかった」という声を多くいただくことが、強く印象に残っています。その声は裏を返せば、「今まで誰も教えてくれなかった」ということでもあります。

実際に情報を知ったことで、病院に行く決断ができた方や、生活習慣を見直すきっかけになった人もいます。大きなことではなくても、「不安が減った」「安心できた」「検査で異常が見つかった」と言っていただける瞬間に、活動の意味を実感しています。

 

——この活動のやりがいはどんなところにありますか?

 

女性が自分の身体について「知らなかった状態」から「理解して選べる状態」へ変わっていく過程に立ち会えることです。予防医療は、すぐに結果が見えるものではありません。しかし、確実に人生の質を高めています。

また、参加者の方が誰かに情報を伝えてくれることで、少しずつ輪が広がっていくのも活動を通して感じています。一人の気づきが、周囲の人の安心につながっていく。その連鎖をつくれることに、大きなやりがいを感じています。

 

 

——今後、どのような社会を目指していきたいですか?

 

「健康について話すことが、特別なことではない社会」をつくりたいと思っています。予防医療は、一部の専門家や意識の高い人だけのものではありません。「正しい情報に誰もがアクセスでき、自分の身体について自然に話せる」という環境が整えば、病気や不調で苦しむ人は、確実に減らせると信じています。そのために、教育や啓発の分野でも、活動の幅を広げていきたいと考えています。

 

——学生のうちにやっておくべきことは何だと思いますか?

 

予防医療や健康の話は、「まだ自分には関係ない」と感じる方もいるかもしれません。しかし、正しい知識を持つことは、将来の自分を守る大切な準備です。学生のうちに社会課題として予防医療に触れることは、自分の生き方や価値観を考えるきっかけにもなります。誰かのためでもあり、同時に自分のためでもある。ぜひ「当事者」として、このテーマに関わってみてほしいと思います。

 

——最後に、学生や若い世代へメッセージをお願いします。

 

私の学生時代を振り返ると、「やらなかった後悔」が強く印象に残っています。

その経験から、「やらずに後悔するより、やって後悔した方がいい」と自分に言い聞かせ、機会やチャンスがあれば自信がなくても挑戦するようにしてきました。そうした一つひとつの経験が、今の自分につながっていると感じています。

学生のうちは、ぜひたくさん失敗してください。自分では「恥ずかしい」と思うことでも、意外と周囲はそこまで気にしていないものです。成長できるかどうかは、自分自身の意識と行動にかかっています。

好奇心に素直に向き合い、「気になる」という気持ちを大切にしてほしいと思います。好きなことを追求する、いろいろな場所に足を運ぶ、さまざまな感情を経験する——そうした積み重ねの中で、自分の価値観や好き嫌いが少しずつ見えてきます。もちろん、悩んだり戸惑ったりすることもあるでしょう。しかし、その感情と向き合った経験は、必ず自分を成長させてくれます。不安を感じるのは、物事に本気で向き合っている証でもあります。

もしつらくなったときは、友人や周囲の大人に「大変だ」「こんなことで悩んでいる」と声をかけてみてください。頑張るあなたを応援してくれる人は、きっといます。

私自身も学生時代に「今のうちにいろいろな人に会って、自分のやりたいことを話しなさい」と言われ、その言葉を信じて行動してきました。多くの人と出会い対話を重ねる中で、自分の強みや苦手、新しい可能性に気づくことができました。人との出会いの中でしか見えない自分があります。ぜひたくさんの出会いを通して、自分らしさを見つけていってください。

 

 

伊奈絵里佳
NPO法人女性予防医療推進機構 理事長

大学卒業後、資生堂に入社。働く中で婦人科疾患の手術を経験したことをきっかけに、予防医療の重要性を深く実感。「女性特有の悩みに寄り添い、安心して行動できる社会をつくりたい」という想いから、2023年に株式会社ウェルクスを創業。予防医療を社会全体で支える仕組みを広げるため、2025年にNPO法人女性予防医療推進機構を設立。行政・教育機関・企業・医療機関と連携し、子宮頸がん・性感染症(STI)予防を中心に、正しい知識の普及と検診・検査につながる啓発活動に取り組んでいる。