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プロを目指した体育会サッカー部員は、なぜ街づくりと人材育成に向かったのか——櫻井翼

グラウンドで過ごした日々は、社会人になった今、どのような形で自らの中に残っていくのでしょうか。株式会社ソーシャルインパクトの代表取締役櫻井翼さんは、大学時代に立命館大学体育会サッカー部に所属し、プロを目指した過去を持ちながらも、現在は「社会変革者の街づくり」という独自のビジョンを掲げ、採用支援や教育事業、さらにはビル構築プロジェクトまで手掛けています。本記事では、櫻井さんのこれまでのキャリアと体育会での日々を振り返りながら、その経験が現在の仕事や考え方にどのようにつながっているのかを掘り下げていきます。

 

——現在はどのようなお仕事をされているのでしょうか?

 

私は現在、株式会社ソーシャルインパクトの代表取締役を務めています。主な事業は、教育事業、採用支援事業、拠点運営支援事業の三つです。主にシリーズA〜Bフェーズのベンチャー企業を中心とした採用支援、転職支援、研修や講座、ワークショップなどを行っています。会社の理念は「社会に良い事業が生まれる最高の環境を届けること」。単なる人材紹介ではなく、企業と個人が中長期的に成長できる関係性をつくることを重視しています。もう一つ、個人として関わっているのが弦本ビル株式会社の「ツモビルプロジェクト」です。これは一人ひとりの可能性が自然に発揮される場をつくることを目的としたビル構想で私はCPO(Chief Philosophy Officer/組織の価値観を担う責任者)という珍しい立場で参加しています。1階にイベントや交流の場、2階にコワーキングスペース、3階にはマーケティングやITなどの専門家が集まるフロア、上さらに階には起業家が働き、住むことのできる空間を設けています。神保町にかつて存在した起業家が集まるミニビルを、現代版として再構築しようという試みです。事業もビルづくりも、根っこにあるのは街づくりです。人と人が出会い、挑戦しやすい環境を作ることが、結果的に社会を前に進めると考えています。

 

 

——学生時代はプロサッカー選手を目指していたそうですね。

 

はい。大学に入った当初はプロになることや、将来的にはサッカーに関わる仕事をすることを真剣に考えていました。ただ、実際に体育会サッカー部に入ってみると、想像以上にレベルが高かったです。週6日の練習は当たり前で、パスやトラップといった基礎動作一つとっても精度がとても高く、フィジカル面でも、自分より一回りも二回りも強い選手が当たり前のようにいました。この中で試合に出続けることは容易ではないなと、早い段階で現実を突きつけられました。それでも部活そのものが嫌になったわけではなかったため、練習はきつかったですが、仲間と同じ目標に向かって取り組む時間は好きでした。自分なりにできることを考え、チームに一生懸命貢献しようと考えながら毎日を過ごしていました。結果的にプロの道は選びませんでしたが、ここで何を学べるか、サッカー以外の人生において学びをどう活かすか、を考えるようになったのが、今につながる大きな転機だったと思います。

 

——体育会での生活で、特に印象に残っていることはありますか?

 

一番印象に残っているのは、試合に出られない時間の長さです。レギュラーではなかったので、ベンチやスタンドから試合を見ることも多く、正直悔しい気持ちはありました。ただし、試合に出ていないからといって練習を手抜きするという選択肢はもちろんなかったので、試合に出ることのできない状況でも、日々練習に打ち込みました。淡々と練習を続ける周囲の選手の姿も毎日見て、この環境で続けること自体が一つの才能なのだなと感じ、日々を積み重ねていくことが力になると考えていました。また、戦術ミーティングも印象的でした。サッカーは感覚のスポーツに見えて、実際はかなり論理的だと思います。相手の配置を見てどう動くか、どこで相手より有利な配置を作っていくか、をホワイトボードを囲んで議論する時間が多く、高校時代よりも頭を動かして考える機会が増えたことは印象に残っています。

 

——体育会での経験は、現在の仕事にどのように活きていますか?

 

かなり直接的に活きていると感じています。まず一つは体力面です。体育会での生活で鍛えられた回復力や持久力は、起業してから本当に助けられています。朝から晩まで人と会い、意思決定を繰り返す日々でも、踏ん張ることのできる基盤は学生時代に作られたものだと思います。二つ目は、プレッシャーに対する耐性です。出場できない期間があっても、チームの一員として全力で振る舞い続ける経験は、結果がすぐに出ないスタートアップの環境とよく似ていると思います。不確実な状況でも、気持ちを乱さずにやるべきことをやる姿勢は、今の経営にもそのままつながっていると考えています。三つ目は、物事を構造的に捉える戦略的思考です。組織の中で人がどう動くか、どこで詰まるのかを考える癖が、大学時代のサッカー部で自然と身につきました。実際に大学院では組織論を研究し、チーム内の衝突を建設的に解消する仕組みをテーマにしていました。その原体験は確実に体育会での経験にあると感じています。

 

——体育会出身者として、社会に出て感じたギャップはありましたか?

 

はい、ありました。体育会で身につけた感覚が、そのままでは通用しないと感じる場面も多くありました。最初に入社したリクルートマネジメントソリューションズでは、いわゆる体育会的な文化が強い会社ではありませんでした。最初は率直すぎる意見の伝え方や距離感で周囲を戸惑わせてしまったのではないかと思ったこともあります。そういった経験から、体育会の価値観は武器にもなるが、全てにおいて万能ではないということです。場面に応じて使い分け、常に自分のオプションとして持っておく感覚が大切だと感じました。

 

 

——学生時代から、起業家になることは想像していましたか?

 

全く想像していませんでした。はじめは教育に関心があり、公務員を目指していた時期もあります。大学院では研究者になることも考えていました。ただ、どちらに対してもスピード感と裁量の部分に物足りなさを感じていました。最終的にリクルートマネジメントソリューションズに入社した理由も社会人としての基礎力を徹底的に鍛えたいと思ったためです。その後、街づくりをしたいという思いが明確になり、自身でソーシャルインパクトを立ち上げました。教育も採用も、突き詰めると人が自然に育つ環境をどう設計するかという話になると思います。これまで体育会で過ごしてきた経験は、その考え方の発端になっていると考えています。

 

——体育会の後輩たちへ、伝えたいメッセージはありますか?

 

「自分を知って、社会を知ること」です。比較的ハードな部活に所属していると、世界がどうしても部活動中心になります。それ自体は素晴らしいことですが、同時に外の世界を知ることも大切です。社会人の方や起業家の方、全く違う価値観の方など、いろいろな人と会話をすることや本を読んで新たな知識を蓄えていくことで自らが得意なことや、苦手なこと、どういった環境であれば最も力を発揮できるのかを知ることが、競技を終えた後の人生を支えてくれると感じます。体育会で過ごす時間は、勝ち負け以上に自分の扱い方を学ぶ期間だと思っています。

プロサッカー選手を夢見ていた学生時代とは、最終的に異なる選択をした中でも櫻井さんは「自分が何をしたいのか」という自らへの問いを投げ続けることによって、これまでのキャリアを構築されてきました。体育会で過ごす時間は、将来の成功を約束するものではありませんが、自分と向き合い、他者と時には衝突し、支え合いながら進む経験は、その後どのような道を選んだとしても判断の軸や行動の基準として残り続けていきます。

 

 

櫻井翼

立命館大学文学部卒。大学では体育会サッカー部に所属し、プロを目指してプレー。卒業後、関西学院大学大学院社会学研究科社会学専攻に進学。修了後、株式会社リクルートマネジメントソリューションズに入社し、組織開発・人材育成領域のコンサルティング業務に従事。その後、株式会社ソーシャルインパクトを創業。現在はベンチャー企業を中心とした採用支援・教育事業を展開するとともに、弦本ビル株式会社にCPO(Chief Philosophy Officer)として参画し、一人ひとりの可能性が生きる場をつくる街づくり・ビル構想にも取り組んでいる。