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未経験から始まった組織を束ねる立場への挑戦——東北大学アイスホッケー部OB 櫻庭隼人氏

大学体育会での経験は、社会に出てどのように生きるのでしょうか。今回お話を伺ったのは、東北大学アイスホッケー部OBの櫻庭隼人氏です。高校までまったく別の競技に打ち込み、大学進学を機にスケート未経験という状態からアイスホッケーに挑戦しました。主務・主将として特殊な環境下でチーム運営の中枢を担い、競技面だけではなく、組織づくりにも深く関わってきました。現在はデベロッパーとして再開発事業に携わる櫻庭氏に、学生時代の挑戦とその経験が今の仕事にどのようにつながっているのかを伺いました。

 

——スケート未経験から始まった東北大学アイスホッケー部での日々

 

櫻庭氏は高校まで約10年間、野球に打ち込んできました。大学進学を機に新しい競技に挑戦しようと選んだのが、アイスホッケーでした。当初はスケートも滑ることができず、周囲と比較すると圧倒的にできないことばかりでついていくことに必死だったと言います。東北大学アイスホッケー部は、部員数が少なく、経験者も限られたチームです。練習環境も特殊で、深夜から練習することもあり、リンクは遠く、アルバイトとの両立も簡単ではありません。決して恵まれた環境とは言えない中で、部員一人ひとりが競技への向き合い方を問われる日々が続いていました。

 

 

——学生主体でチームを1からつくる経験

 

櫻庭氏が特に印象に残っていると語るのは、部の運営をほぼ学生だけで担っていた点です。監督は在籍していたものの、仕事の関係で練習に来ることができない日も多く、練習メニューの作成や戦術の検討、チーム編成まで、日常の意思決定は学生が担っていました。櫻庭氏は、3年生の時には主務として組織運営の中心を担い、4年生では主将として実質的にチーム全体をまとめる立場を経験しています。レギュラーメンバーの決定や作戦立案など、勝敗に直結する判断を任されるプレッシャーは相当なものでした。当時は全員が同じ熱量で競技に向き合っているわけではなかったため、どのように声をかけるか、どこまで厳しく指摘すべきかを常に悩みながら行動していたと話します。

 

——七大戦最下位でも目標を掲げ続けた

 

東北大学アイスホッケー部の最大の目標は、旧帝国大学7校による七大戦での優勝でした。しかし、櫻庭氏の代は、どの学年にも経験者がほとんどおらず、結果は最下位に終わりました。勝ちたいという気持ちはあったものの、現実とのギャップは大きく、それでも優勝という目標を下げて小さな目標を追いかけるのではなく、大きな目標を追いかけ続けていました。高校での野球部での経験では、全員が勝ちたい、上手くなりたいと同じ方向を向いていた一方で、大学の部活では、競技にかける思いや優先順位は人それぞれです。その違いを前提にチームを前へ進めるため、櫻庭氏はまず、メンバー一人ひとりの背景や価値観を理解することから始めました。

 

 

——部活動を行いながらの就職活動とデベロッパーという選択

 

櫻庭氏は経済学部出身です。部活動を最後まで続けながら就職活動を行ったため、エントリーした企業は約6社に絞られていました。当時の志望業界はデベロッパーに絞っており、その背景には地元への強い思いがありました。就職活動を行っている中で、自身の地元が、あるデベロッパーによって50年かけてつくられた街だと知り、街づくりという仕事に惹かれていったと語ります。実際にデベロッパーへ入社後は東京で土地取得や建物開発に携わり、現在は仙台支店で中心市街地の再開発事業を担当しています。

 

——部活動で培った合意形成力を活かしたプロジェクト進行

 

現在担当されている再開発事業では、数百人規模、数十社に及ぶ関係者が携わります。立場も利害も異なる人々の意見をまとめ、合意形成を進めていく必要があります。現在の仕事においても部活でやってきたことと本質的には同じものだと感じていると櫻庭氏は語ります。相手が何を大事にしているのか、どこに不安があるのかを考えながら言葉を選び、その積み重ねを行っていく。このプロセスを部活動で主将を務めていた際に繰り返してきたことが、今現在の仕事にそのまま生きていると述べます。学生時代に、チームをまとめるために悩み続けた経験が、今のプロジェクトを進行する力となっています。

 

 

——体育会での経験が育てた「要点を見極める力」

 

櫻庭氏は、体育会出身者の強みについて、「最小の動きで最大の効果を出すポイントを押さえられること」だと語ります。自分がどのポジションにいて、何を求められているのかを考える癖がついていることは部活動の経験を経て自然と身についた感覚であるとのことです。短期的な成果だけではなく、1年後、数年後を見据えて今何をすべきかを考える視点は、組織で働く上で大きな武器となっています。

 

——現役学生へのメッセージ

 

「とりあえず、目の前のことに本気で熱中してほしい。」今やっていることに100%エネルギーを注ぐ経験は、必ず社会に出てから繋がる――櫻庭氏はそう語ります。自分がやりたいことをするためには、まず目の前の仕事にどれだけエネルギーを注ぐことができるか、そこに対してどのように力を培っていけるかが重要だと強調しました。また、東北大学アイスホッケー部での主務時代に資金繰りに苦労した経験から、近年広がっている協賛金を募る活動についても、非常に価値のある経験になると語り、積極的に挑戦してほしいとエールを送りました。

 

——終わりに

 

スケート未経験から始まり、学生主体での組織運営、結果の出ない苦しい時期、そして社会で生きる力へと変化していった櫻庭氏の経験は、体育会での経験が単なる競技の枠を超えて、人を動かす力や組織を前に進める力を育てる場であることを教えてくれます。もし大学生活をやり直せるとしても再び同じ部活を選びたいという櫻庭氏の言葉から、東北大学アイスホッケー部という環境の価値が強く伝わってきました。

 

 

今回の取材から一貫して伝わってきたのは、競技経験の有無や結果以上に、組織の中でどのように人と向き合い、チームを前に進めてきたかという点でした。スケート未経験という立場で競技を始めながら、主務・主将としてチーム運営を担った経験は、学生主体の部活動ならではの学びだったと言えるでしょう。価値観や熱量の異なるメンバーと向き合い続けた日々は、現在の仕事における合意形成や全体との調整の場面にも確実につながっています。東北大学アイスホッケー部での経験は、社会で人と仕事を動かすための確かな土台となっていると言えるでしょう。

 

櫻庭隼人

東北大学経済学部卒。大学ではアイスホッケー部に所属し、スケート未経験から競技を開始。3年次に主務、4年次に主将として学生主体のチーム運営を担う。卒業後はデベロッパーに入社し、東京にて用地取得・建物開発業務に従事。現在は仙台支店で中心市街地の再開発事業を担当し、多様な関係者との合意形成を図りながら街づくりに携わっている。